お金持ちは幸せ?
お金持ちは、欲しいものが何でも自由に買えて、
幸せそうですよね。
「私はお金がないから幸せになれない、金持ちはいいな」
と思っている人もあります。
じゃあ、お金があれば、幸せになれるのでしょうか?
お金があれば幸せなのか、あっても虚しいのか。
お釈迦様は「有無同然」と教えられています。
有無同然の意味を詳しく説明します。
有無同然:苦しみがなくならないのは同じ
ブッダは、お金は、
有っても無くても、幸せになれないのは同じ、
と教えられています。
これを「有無同然」と言います。
お釈迦様は、『大無量寿経』にこのように説かれています。
尊と無く卑と無く、貧と無く富と無く、少長・男女共に銭財を憂う。
有無同じく然り。憂き思いまさに等し。(引用:『大無量寿経』)
「尊と無く卑と無く、貧と無く富と無く」
とは、尊敬されている人も、見下されている人も、
貧しい人も、お金に不自由のない人も、ということです。
「少長・男女共に銭財を憂う」とは、
若い人も、年上の人も、男も女も、
みんなお金のことで悩んでいるということです。
「お金に不自由がなくても、お金のことで悩むの?」
と思われるかもしれませんが、お金があればあるほど、
税金の問題や、失う心配が出てきます。
お金があれば幸せ?お金持ちの声
お金がたくさんあると幸せなのでしょうか?
マイクロソフトを創業し、世界有数の富豪になったビル・ゲイツは、こう言っています。
「金持ちで得することはあまりない」
(『幸福の資本論』)
『普通の人がこうして億万長者になった』という本には、
実際にお金を持った人の本音が出ています。
お金だけで幸せになれるものではなく、
お金自体は、むしろ不幸を招くものかもしれません。(弁理士)
「お金」「成功」も目的ではない。
一つのことに成功しても、何事かにまた挑戦したくなる。
(証券会社 会社員)
「高収入=成功」ではない。時間(特に家族との)、
人間性の一部(労使の確執などで)など、失うものが大きい。
細々とやっていた頃の方が、幸福感が大きかった。
できれば戻りたいと家族すべてが思っている。(病院理事長、医師)
お金はパワーが形になった物と思っているので、
自分がそれに見合わなければ、かえってお金に潰されると思う。(医師)
株式公開したらセールスの電話がやたらと自宅にかかってくるようになった。
有名になるのも良し悪しだと思った。(不動産会社 社長)
高額納税者名簿に載った次の年、いやがらせの電話がかかってきた。
寄付やセールスの電話も多くなり、警備会社と契約した。(保険セールス 自営業)
どんなにお金がある人でも、やはりお金のことが悩みになるのです。
また、資産家がお金を守ろうとして人を信じられなくなる傾向がありますから、そこから不幸が始まります。
お金は、人と人の間に亀裂を生じさせるのです。
組織のトップに立った人の虚しさ
また、組織のピラミッドのトップになったからといって、それほど充実するわけではありません。
見かけは自信に満ちていても、権力を振るって業界や社員を支配しようとしたり、少しでも相手の優位に立とうとして、策略を巡らします。
社内政治の駆け引きや、内部抗争が起きてくると、だんだん虚しくなってきます。
そして、実力主義ですので、変化の激しい現代社会で、結果を出せなくなれば、立場を退かなければなりません。次から次と問題や悩みが起きてきます。
「有無同じく然り」とは、お金や財産、地位、名誉など、有っても無くても、
満たされないことには変わりがない、「有無同然」だ、ということです。
「憂き思いまさに等し」とは、何に苦しむかは人それぞれですが、
何かしら苦しんでいること自体は同じということです。
それは一国の王でも同じです。
古代のギリシアで、ダモクレスという臣下が、王様の幸せをうらやましがって、誉めそやしました。
すると王様は、ダモクレスにそれなら王様気分を味合わせてやろうと、
贅を尽くしたパーティーに招待してくれました。
当日、ダモクレスがパーティーへ行くと、
なんと王様は、玉座に座ってみてもよい、といわれます。
ダモクレスの剣
喜んで玉座で美味しい食事を楽しみ、宴たけなわとなった頃、
ふと上を見ると、自分の席の上には、髪の毛一本でつられた剣が下向きにぶら下げられていました。
驚いたダモクレスが転げ落ちるように玉座から逃げ出すと、王様は、
「王の気分を味わえたか?
常に危険と隣合わせなのが王の立場なのだ」と諭したといわれています。
これは「ダモクレスの剣」という
ケネディ大統領の演説にも出てきた有名な話ですが、
王様は、贅沢ばかりしているようでいて、
常に命の危険に、不安で怯えていなければならない、ということです。
これを中国の皇帝の一人、漢の武帝は、こう言っています。
歓楽極まりて哀情多し。
(漢武帝「秋風辞」)
漢の武帝も、パーティーで盛り上がってくると、何だか寂しく、虚しくなってくる、と言っているわけです。
お金を持っていても虚しくなるのは深い理由がありますので、こちらの記事もご覧ください。
➾「虚しい気持ち」「虚しい人生」になる理由と対処法
お金の研究の結果
お金と幸せの関係は、心理学や行動経済学などで、研究されています。
例えば、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、お金と幸せの関係について、大規模な調査をしています。
その結果、お金はあればあるほど良いというわけでもないということが分かりました。
年収7万5000ドルまでで幸福度は頭打ちになるというのです。
(出典:米国科学アカデミー紀要(PANS))
日本では、年収や7百万円までは幸福度が上がっていくのですが、
その後は下がるという研究結果が報告されています。
ある程度の衣食住が満たされると、それ以上どんなに働いても、
幸福度は上がらず、むしろ下がることさえあるのです。
心理学の研究では、お金や名声、美容に最も関心があると答えた人たちは、
人生において物質的でないものを目標として追求している人よりも、
一貫して幸福度が低く、不健康でさえあることがわかっています。
アメリカのユタ州のブリガムヤング大学のティム・ヒートンの研究によれば、
お金持ちではない夫婦のほうが、夫婦関係は安定しています。
富裕層のお金持ちほど夫婦関係はなかなか安定しません。
不倫をしたり、離婚をしたりしやすいという結果が出ています。
それには以下の理由が考えられます。
お金持ち夫婦ほど、あまり子どもを作りません。
「子は鎹」という言葉がありますが、子どもがいない、また少ない夫婦は、離婚しやすい傾向にあります。
また、「ほかの相手を見つけやすい」ということもあります。
お金を持っていれば、それだけ言い寄ってくる異性も多くなりますから、結果として、浮気や不倫をしてしまう危険性が高まります。
そして、浮気や不倫をしていれば、当然、離婚もしやすくなります。
(引用:『世界最先端の研究が教える すごい心理学』)
また、経済学でも同じようにいわれています。
『10万年の世界経済史』という本を書いた、経済学者のグレゴリー・クラーク氏はこう言います。
皮肉な事実は、世界の多くの国々では一般庶民も豊かになり、
子供の死亡率の低下、成人の平均余命の延長、
不平等の縮小などが実現したにもかかわらず、
人々は狩猟採集時代の先祖よりもほとんど幸せになっていない。
(引用:グレゴリー・クラーク『10万年の世界経済史』)
お金と幸せの関係
ノーベル賞を受賞したラッセルは、『幸福論』にこう言っています。
金というものが、ある一点までは、幸福を増大するうえに非常に役立つものであることを、私も否定しない。
しかしその一点を越えてなお、金が幸福を増大せしめるとは思わない。
(引用:ラッセル『幸福論』)
最近では金持ち父さんもこう言っています。
晩年になって、自分でも夢にも思わなかったほどの
金持ちになっていた金持ち父さんは、何度もこう言った。
「お金はきみを幸せにはしない。
金持ちになったら幸せになれるなどと決して考えるな」
(引用:『金持ち父さんの子供はみんな天才』)
これはお金以外の地位や名誉、才能や美貌など、何でも同じです。
例えば、都会に住んだほうが便利なように感じますが、
都会に住んでいる人の統合失調症や不安障害の発生率が、そうでない人より56%高いという研究結果もあります。
やはり有無同然です。
お金があっても虚しくなる理由:限界効用逓減の法則
またミクロ経済学の法則に、「限界効用逓減の法則」があります。
これは簡単に言えば、1杯目のビールの満足感(効用)と比べて、2杯目以降のビールの満足感は減っていく(逓減)するということです。
いろいろな場面で見られる現象で、デートの喜びも、新しく始めた趣味の楽しみも回数を重ねるにつれて、かつての興奮が味わえなくなります。
お金も同じで、お金がないときに得られたときの喜びは強烈な幸福感がありますが、すぐに消え去る宿命なのです。
みんな、お金や財産、地位や名誉、美貌がないところから、あるようになったら幸せになれると思って、一生懸命に努力しています。
ところが実態は、お金や財産、地位、名誉、才能や美貌などによって、
苦しみを離れることはできません。
本当の幸せになるためには、向かうべき方向性がまったく違います。
お金についてブッダは『根本説一切有部毘奈耶』や『十誦律』、あるいは『大莊嚴論經巻六』にこう教えられています。
お金についてのブッダの教え
ブッダが王舎城におられたある日、土砂降りの雨上がりに、お弟子の阿難と托鉢に出かけました。
しばらく行くと、雨でドロドロになった道のそばに、光り輝く金銀財宝が顔を出していました。
それを見られたブッダは、阿難に、
「そこに毒蛇がいる。かみつかれないように」
と言われました。阿難は
「はい、心得ております」
と答えて通り過ぎていきました。
『大莊嚴論經巻六』にはこう説かれています。
仏、阿難に告げたまわく、これ大毒蛇なり。
阿難、仏にもうさく、これ悪毒蛇なり。
(漢文:佛告阿難是大毒蛇阿難白佛是惡毒蛇)(引用:『大莊嚴論經』巻六)
近くの畑で麦刈りをしていた貧しい農夫が、
「このあたりに毒蛇がいたなんて危ないことだ。どんな毒蛇だ?」
と見に行くと、土の中から目もくらむような金銀財宝が輝いています。
「これはすごい。誰かが昔埋めたのが大雨で洗い出されたに違いない。
これを毒蛇と間違うとはブッダも愚かな奴だ」
農夫は全部持ち帰ると、大きな屋敷を建てて、象や馬、牛や羊などの家畜も飼い、多くの使用人を使って贅沢な暮らしを始めました。
ちょうどその頃、最近王さまになったアジャセ王が、領民がどれくらい財産を持っているか調査していました。
この羽振りのよさをねたんだある村人が、今まで貧乏だった男が急に金持ちになったと報告します。
すぐに王様から厳しい取り調べにあって、横領した拾得物はすべて没収になり、家族も捕まり、死刑の判決を受けます。
刑場に連行されて行く途中、男は、
「ああブッダの言われたことは本当だった。
あれは間違いなく毒蛇だった。
自分が噛み付かれて命を落とすだけでなく、家族にまで毒が回って大変なことになった」
と深く後悔しました。
やがて刑場に到着して、いよいよ命を断たれようとした時、使者が飛び込んで来て、死刑の前に王様がお呼びだといわれます。
もう一度お城に戻ると、王様から、
「お前が刑場に行く途中、ブッダが何かを毒蛇と言われたと言ったそうだが、それは何のことか」
と尋ねられます。
「実はブッダはかつて、金銀財宝を毒蛇だと言われて通り過ぎて行かれたのですが、まったくおっしゃる通りでした」
それを聞いた王様は、ブッダの言葉に涙を流して
「お前の罪を許す」
といわれます。
「まったくブッダの言われる通りだ。財宝は毒蛇のようなものだ。
よくこの尊い教えを聞かせてくれた」
こうして男は釈放されたのでした。
(出典:『十誦律』第十五)
そして、その金銀財宝でブッダを招いて食事を布施し、
本当の幸せになれる道を明らかにされた尊い教えを説いて頂いたといわれます。
お金以外で幸せになる方法
今回は、「有無同然」のお言葉について解説しました。
有無同然とは、私たちは、ものや財に恵まれても、恵まれなくても同じく苦しんでいるということです。
お金があっただけでは、幸せになれず、虚しい人生になることは明らかです。
これは様々な研究結果で報告されています。
このことをお釈迦様も毒蛇のたとえで教えておられます。
もしお金や美貌が有っても無くても有無同然で、同じように幸せになれないなら、有ることにどれだけ意味があるのか分からなくなります。
では一体どうすれば、お金や美貌が有っても無くても幸せという
本当の幸せになれるのでしょうか。
以下のメール講座と電子書籍にまとめましたので、
見てみてください。
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この記事を書いた人
長南瑞生
日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか1人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。たまたまインターネットの技術を導入して爆発的に伝えられるようになり、日本仏教学院を設立。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと今も奮戦している。
仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者4千人、メルマガ読者5万人。X(ツイッター)(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能。
著作
- 生きる意味109:5万部のベストセラー
- 不安が消えるたったひとつの方法(KADOKAWA出版)