映画・セールスマンの死
「なぜ頑張っているのに報われないのか?」
「会社に尽くしても最後は使い捨てにされるのか?」
「子供に期待をかけることの何が悪いのか?」
これらの現代日本人が抱える深刻な悩みを『セールスマンの死』は恐ろしいほど正確に予言しています。
自分では真面目に頑張って生きているのに、
なぜ不幸や災難ばかりやってくるのかと思っている人の
気づかない3つの問題と、陥りやすい破滅パターンを警告しています。
主人公はどんな人生観を持っていて、その結果どうなるのでしょうか?
主人公ウィリー・ローマンは、まさにあなた自身かもしれません。
(ミステリー映画ではありませんが、
あらすじは最後まで書いてありますので注意してください)
映画・セールスマンの死のあらすじ
映画『セールスマンの死』は、アメリカの劇作家、アーサー・ミラーの戯曲をもとに、1951年に公開された映画です。
1985年にも別の監督、キャストによって映画化されています。
日本では今もなお舞台で上演される作品です。
それは主人公のウィリー・ローマンと、
現代日本の私たちとは、重なる点がいくつもあるからです。
63歳のウィリー・ローマンは、ニューヨークに住むセールスマン。
ボストンなどの遠方に出張してセールスするものの、
年々売り上げが下がり、給料も下がっていきます。
最初は自惚れて自分自身の問題点が見えていませんでしたが、
隣人のチャーリーとのやりとりや、亡き兄の幻想によって、
自分がうまくいかない原因の一端を知ることとなります。
ですが、その厳しい現実が受け入れられず、ますます幻想の世界に逃避していきます。
自分の能力や現状を正しく見ることができず、独自の理論を展開して
現実とはかけ離れた幻想の世界で生きているうちに、
年齢とともに体力の衰えを感じます。
実際には成果を出せないウィリーは、家や車のローンの支払いに追われ、
日々、生活費の工面に奔走し、友人からも借金を繰り返します。
遂には上司からクビを言い渡されます。
この主人公のように、自分自身の姿が正しく見えていなかったり、
生き方ばかりに心をとらわれているのは
果たして一部の限られた人だけでしょうか?
私たちに迫り来る人生の危機に、路頭に迷わないためのヒントを与えてくれています。
詳しいあらすじを見てみましょう。
1. 主人公は特別な人間ではない
出張先から予定より早く帰宅したウィリーは、妻のリンダに
「車が道から外れてしまって、運転できなくなった」と話します。
それが絶望の始まりでした。
悩んでいる様子のウィリーに、リンダは休息が必要なのだと言い、
ウィリーの身体を気遣って「もう旅回りは無理よ、ニューヨークで働いたら?」と優しく提案しますが、
ウィリーは自分のことを「ニューヨークでは用なしだ」と正直に吐露します。
そんな話をしていると、2人の息子が帰宅。
長男のビフとは、顔を合わせるとすぐ喧嘩になってしまうので、
リンダはウィリーに、話す時は腹を立てないよう釘をさします。
ビフと実際に顔を合わせると、現在テキサスの農場で働くビフは
今後のことについて聞いても、ハッキリ答えません。
すると腹を立てたウィリーは、
「テキサスに帰って、カウボーイになれ」とか
「野生の馬でも馴らして満足してろ!」と怒鳴り散らします。
息子たちが2階へ上がっていくと、リンダに
「34歳にもなって定職に就かない怠け者」と話します。
リンダがまだ迷っているからだと言うと、
「世界一の大国に住んでいて、あれほど魅力がある男なのに」
と言います。
ウィリーは特に長男のビフには
「お前は特別な人間だ。みんなに好かれる才能がある」
と、ずっと言い続けて育ててきました。
それだけビフに期待していたということです。
2. 父親と息子が描いた壮大な夢
長男のビフは高校時代、奨学金を出すという大学が3つもあるほど、
フットボールの選手として活躍していました。
ウィリーはそんな息子を誇りに思い、
「ビフは必ず成功する」と心から信じていました。
そして、人から好かれる人間が成功すると、ウィリーは強く思い込んでいます。
「自分はみんなから好かれているし、ビフもコーチや周りの人から好かれている、だから成功できる」と。
親子は、ビフがフットボール選手として成功し、
やがてはビジネスでも大成功をおさめるという壮大な夢を描いていたのです。
ですが、現実はそう甘くはありませんでした。
その上、その壮大な夢への道はウィリーのとった行動が大きく影響し、断たれてしまいます。
3. アメリカンドリームという虚構の現実
ウィリーが信じていたアメリカンドリームは、「人柄が良ければ成功する」ので、「事業で成功しお金持ちになる機会は必ずやってくる」というものでした。
ウィリーは心からこれを信じて疑わず、息子たちにも繰り返し言って聞かせます。
それでビフもまた、自分は成功できると思い込みます。
でも実際は、現実とはかけ離れた虚構でした。
実際の社会はウィリーが考えているほど甘いものではありません。
営業の世界では結果がすべてです。
どんなに人柄が良くても売り上げが上がらなければ評価されません。
評価されなければ、当然収入も下がっていきます。
ウィリーは、なぜ昔のように商品が売れなくなったのかが分からず、悩むことになったのです。
その原因は、そもそもの前提の間違いでした。
4. 地道な努力が報われた成功者の今
ウィリーの家の隣には、この親子と対照的な、チャーリーとその息子バーナードが住んでいます。
チャーリーは事業家で、近々カリフォルニアで新しい事業を始めるようです。
息子のバーナードは、高校時代ビフの友達でした。
地味で勉強第一だったので、人に好かれず成功できない男だとウィリーは思っていました。
「成績が良くても、社会に出れば大した人間にはならない」
と見下していたのです。
ですが、年月を経てバーナードは弁護士として成功をおさめます。
最高裁判所で弁護するほどの実力となります。
バーナードの成功は、周りの人間がいくら遊んでいても、コツコツと勉強を続ける地道な努力の結果です。
彼は派手さはありませんでしたが、着実にキャリアを積み上げていきます。
ウィリーが軽視していた勉強が、成功への確実な道だったのです。
5. 人生をかけた会社からの突然の裏切り
ウィリーは36年間、同じ会社でセールスマンとして働いてきました。
「会社に多大な貢献をしてきた」
という誇りを持っています。
創業者のワグナーについては立派な男だったと言うウィリーですが、
ワグナーの息子、ハワードが社長になると、状況は一変。
ハワードにとってウィリーは、単なる売り上げの少ない高齢のセールスマンに過ぎなかったのです。
ウィリーが長年の貢献を訴え、出張のない仕事を希望しても、
ハワードは取り合いません。
給料の交渉をしても、冷たく拒否されてしまいます。
そして最後、ついにウィリーは、解雇を言い渡されてしまいました。
これは現代の日本でも起こることです。
終身雇用制度が崩壊し、リストラが日常茶飯事となった今、
多くのサラリーマンがウィリーと同じような不安を抱えて働いています。
会社に人生を捧げても、最後は使い捨てにされる現実は、決して他人事ではありません。
6.幻想から覚めて見えた過酷な現実
会社をクビになったウィリーは、何をしても八方塞がりだと、亡き兄・ベンの幻覚と対話を始めます。
「やり方を知ればうまくいく」
とアラスカの仕事を紹介してくれたベンに、セールスの仕事を続けると言って断ったのがビフが18歳の時でした。
「何をするかではなく、どれだけ顔がきくかだ」と言っていたウィリーでしたが、
チャーリーから「この世で大切なのは何が売れるかだ。
みんなに好かれることも、好印象を与える必要もない」
と言われ、自分が間違った思い込みをしていたことに気づきます。
その日の夜は息子たちと3人で、レストランで食事をする約束でした。
長男のビフはその前に、新たな仕事を始めるためのお金を借りようと、かつての雇用主と会う約束をしていました。
ですが長時間待たされた挙げ句、会えたのはたった1分。
もちろんお金を借りることもできませんでした。
前に働いていた時はバスケットボールを盗み、今回は万年筆を盗んできたと言います。
ビフは、なぜ自分がそんなことをしたのかも分からないままです。
会社をクビになり、ビフの話を聞いたことで、ウィリーはついに自分の人生が虚構だったと気づきます。
これまで固く信じてきた「自分はみんなに愛されている」という自信も、「息子は成功し大物になる」という思いも、自惚れであり、勝手な思い込みだったと気づいたのです。
ビフもまた、自分が何者かを理解します。
自分はつまらない人間で、人の上には立てないことを受け入れ、新たな人生を歩もうと決めます。
「父さん、僕はクズなんです。分かりませんか?
僕はこれだけの人間なんだ」
そう言ってビフはウィリーに抱きつきますが、ウィリーにはこのビフの言葉も行動も理解できません。
リンダから「あなたが好きなのよ」と言われ、
「私に泣いてすがった。いい子だ」と言うウィリー。
現実を突きつけられたウィリーは、ますます過去の幻想にしがみつくようになります。
7.尊敬していた父の裏切りが与えた深い傷
ビフの人生の大きな転機は、高校時代に数学で落第した時でした。
父親から先生に頼んでもらおうと、ボストンに出張中だったウィリーのもとを訪ねます。
ビフがホテルの部屋を訪れた時、ウィリーは他の女性と一緒で、
とっさに女性を別の部屋に連れて行ったのですが、途中で出てきてしまい、ビフと鉢合わせします。
それまで楽しそうに話していたビフの表情が、一気に真顔に変わります。
それまでビフにとって父親は、頼りがいがあって、世界中を忙しく飛び回っている自慢の父親でした。
ですが、その信頼が突然裏切られてしまったのです。
他の女性と密会していただけでなく、その女性に母親よりも高級なプレゼントを渡しているのを見て、ビフは絶望します。
女性が部屋を出て行くと、ビフは肩を落としてベッドに座り込んでしまいます。
ウィリーが「明日の朝一番で学校に行こう」と言うのですが、
ビフは「もういい」と投げやりな気持ちになります。
大学にも「行く気はない」と泣き出し、「嘘つきの偽善者だ」と叫び、部屋を飛び出して行きます。
ビフの高校では落第しても、夏期講習を受ければ挽回できます。
ところがビフはその後、姿をくらまします。
卒業単位のそろわないビフは、その後の人生が大きく変化しました。
友達のバーナードが「あの時、人生を捨てた」と言っているほどです。
それだけ絶望感が強かったのです。
8.お金に振り回され通しの人生の最期
さて、ウィリーはお金の工面に困り果てていました。
すると幻想の中のベンは、ウィリーに提案を持ちかけます。
確実に保証されている2万ドルがあると。
それは、コツコツ支払いを続けている生命保険金のことでした。
ウィリーは最初は卑怯なやり方だと言います。
ですがだんだん、家族に何か残してやりたいと思い始めます。
ウィリーはリンダに、先に休むようにと優しく言います。
そしてリンダが部屋を出て行くと真顔になり、キョロキョロと様子を窺いながら電気を消します。
何か決意した様子のウィリー。
妻にも、息子たちにも何も言わず、一人車に乗って夜の街へと出掛けていきました。
幻覚のベンが「素晴らしいじゃないか。彼に2万ドルの保険金が入る」と言うと、
「金が入ったら、またバーナードを追い越す」
とウィリーは笑います。
「ビフとは仲直りできると信じてた。初めて私の偉大さを知るだろう」
と嬉しそうに話すウィリーですが、ベンに
「ジャングルは暗いが、ダイヤがいっぱいだ」
と言われると、怖いんだと本心を打ち明けます。
ですが、「ダイヤは手に入れる価値がある」と言われて、
「そうだ」と思い直し、笑いながらどんどんスピードを上げていきます。
街の明かりがキラキラとダイヤのように見え、ウィリーは笑顔で最期を迎えました。
それはやはり兄のベンと一緒の幻想の中でした。
最後の葬式の場面では、ウィリーのお墓の前にいるのは、妻のリンダと息子たちと、隣人のチャーリー、バーナード親子だけでした。
ウィリーは生前、自分の葬式には近くの州から昔の仲間が大勢やって来ると言っていましたが、
家族と隣人以外は誰も参列しませんでした。
リンダは、保険金で家のローンの最後の支払いを済ませたと言い、
それなのに、住む人はいないと話します。
ウィリーの死は、家族に価値あるものを残すというよりも、深い悲しみを与える結果となりました。
ウィリーはずっと「成功したい」という欲望を懐き続け、自分はそれが実現できる力のある人間だと思い込み、本当に大切なものが何か分からなくなっていました。
失ったものはたくさんありますが、結局最後まで求めているものは得ることができなかったのです。
現代日本に通じる3つの問題
この悲劇的な物語は、現代日本の私たちに関係ないと言えるでしょうか。
この映画は私たちに、人生に迫る色々な問題を提示してくれています。
承認欲求の暴走
ウィリーが生涯にわたって追い求めた「みんなに好かれることが大事」というのは、承認欲求です。
彼は営業成績や実際の能力よりも、どれだけ多くの人に愛されているかを重視し、それが自分の価値だと信じていました。
この人生観は、SNSが普及した現代社会でもよくある思考パターンです。
現代人は、SNSの「いいね!」の数やフォロワー数で自分の価値をはかる傾向があります。
・食事の前に料理の写真を撮ってSNSにアップする
・旅行先や映える写真スポットでの撮影に時間を費やす
・他人の投稿に対する嫉妬で精神的ダメージを受ける
ウィリーと同じような承認欲求の罠にはまっている人も少なくありません。
実際の人間関係や自分の成長より、他人からの評価を最優先にしてしまうのです。
職場でも同じです。
・上司からの評価だけを気にして本質的な仕事を軽視する
・同僚との競争に勝つことを重視する
・頑張っている自分をアピールする
そんなことに必死になっている人がいます。
これらはすべて、ウィリーの思考パターンです。
他人から認められることでしか自分の価値を確認できないマインドセットが、自分を束縛し、不自由にしてしまうのです。
親子間の歪んだ愛情
ウィリーとビフ親子の関係は、現代の日本でもよく見られる親子関係の問題を表しています。
ウィリーは息子への愛情から、自分の理想を押し付け、常におだてることで、自分たちは偉いという錯覚を抱かせてしまっていました。
そして、過度な期待をかけ続けていたのです。
現代の教育熱心な親も同じです。
日本では学歴重視の考え方が今も根強くあります。
受験競争は激しく、親が子どもに過度な期待をかけます。
子どものためと思って、たくさんの習い事をさせたり、塾に通わせて有名校に進学することを強要するのは、ウィリーと同じ人生観といえます。
子どもの個性や意思を無視して、親の理想を実現させようとすることは、本当の愛情とは言えません。
また、ウィリーの妻リンダのように、家族の問題から目を逸らし続ける共依存の関係もよくあります。
夫を愛するあまり、ウィリーの度重なる問題行動を見て見ぬふりをし、
喧嘩のタネとなっている息子たちを遠ざけようとする態度は、家族全体を不幸な状態にしてしまいます。
本当に家族のことを思うなら、時には厳しい現実と向き合わせることも必要です。
真の愛情とは、相手の成長を願い、自立を支援することなのです。
働く意味の誤解
ウィリーは36年間、同じ会社で働き続けてきました。
ですがある日、あっさりと解雇されます。
それによって人生をかけた会社への献身は、
何の意味もなかったことが明らかになります。
この問題は、現代日本のサラリーマンも直面しています。
日本では長らく終身雇用制度が続いてきましたが、現代はそんな保証もありません。
それでも「会社のために尽くせば、きっと報われる」と思っている人は今もいます。
残業や休日出勤を厭わず、ある時はプライベートを犠牲にして働き続ける人たちは、ウィリーの生き方と重なります。
さらに深刻なのは、働くこと自体が目的になってしまうことです。
ウィリーは販売という仕事が自分の一生の仕事だと思い、そこに人生の意味を見出そうとしましたが、
実際には、どんな仕事がしたいのか、何のために働いているのか、働く意味が分からなくなっていました。
現代でも、忙しく働いているうちに本来の目的を見失い、働くこと自体が人生の意味だと錯覚してしまう人が多くいます。
燃え尽き症候群や過労死も、このような働き方への盲信が生み出した悲劇とも言えるのです。
このように『セールスマンの死』の主人公、ウィリーは、
1. 承認欲求の暴走、
2. 親子間の歪んだ愛情、
3. 働く意味の誤解
という人生の3つの破滅パターンを
身をもって明らかにしているといえるでしょう。
主人公の死が問いかける人生の根本的な疑問
ウィリーの自殺は、単なる悲劇的な結末ではなく、
私たち一人一人に対する深刻な問いかけです。
彼はなぜ死を選んだのでしょうか。
そして、その死は何を意味しているのでしょうか?
ウィリーは生命保険金の2万ドルによって家族が喜び、息子のビフは事業を始められると信じて自殺しました。
ですが実際は誰も喜んでおらず、妻のリンダはウィリーのこの選択の理由をずっと考え続け、それでも理解できないままでいます。
これは彼の人生を通して続いた幻想の表れで、やはり本当の現実や家族の想いを正しく受け止められていなかったのです。
自分が死んでも息子に成功してもらいたいという願いは、
一見すると父親の深い愛情のように見えますが、
実は自分が実現できなかった夢、自分の理想を息子に押し付ける最後の試みでした。
ここで考えなければならないのは、
「私たちの本当の生きる意味は何なのか?」
という根本的な問いです。
ウィリーは生涯、人からの評価や成功によって自分の価値をはかろうとしました。
他人からの評価、息子の将来性といった自分の外にあるものを中心として、それに依存していたのです。
ですが、そういうものはすべて確実なものではなく、いつ失われるか分からないものでした。
もしウィリーがもっとよく「生きる意味」を考えていたら、結末は変わっていたかもしれません。
仕事で失敗しても、息子が思う通りにならなくても、
それで自分の価値が下がるわけではありません。
ですが、外側の評価にしか価値を見出せなかったウィリーには、このことが分かりませんでした。
さらに深刻な問題は、ウィリーが最後まで現実と向き合うことをせず、幻想の中で生きていたことです。
息子のビフはウィリーに「僕たちはくだらない普通の人間だ。偉くも何ともない。期待しすぎないで」と訴えました。
これはビフの心からの言葉でしたが、ウィリーはこれを受け入れることができませんでした。
ウィリーの死は、私たちに「本当の生きる意味は何か?」を問いかけています。
他人の評価に依存した生き方は、最終的には破綻すると
彼の人生が訴えています。
では、本当に意味のある生き方とは何なのでしょうか?
そして、この映画が示す私たちの人生の教訓はどこにあるのでしょうか?
この映画が示す人生の教訓
虚構に生きることの代償
ウィリーの人生最大の悲劇は、現実ではなく虚構の中で生きてしまったことです。
「自分はみんなに愛されている」
「息子は特別な才能を持っている」
「人に好かれていれば必ず成功できる」
という幻想にしがみつき、最後まで現実を受け入れることができませんでした。
この虚構への執着が、彼自身だけでなく家族全体を不幸な状態へと導いたのです。
現代の私たちも、様々な虚構に惑わされるリスクがあります。
SNSで作り上げた理想的な自分像、
会社での立場や肩書きに依存したアイデンティティー、
子どもの成功によって自分の価値を感じる親の願望など、
これらはすべて現実ではなく虚構です。
一時的には喜びや満足を与えてくれるかもしれませんが、長期的には必ず破綻します。
確かに虚構に生きるほうが楽かもしれません。
ですがその最大の代償は、本当の自分と向き合う機会を失うことです。
ウィリーは自分の本当の気持ちや能力、限界を認めることができませんでした。
その結果、成長する機会を逸し、人生の時間をムダにしてしまいました。
現実と向き合うことは確かに辛いことですが、それを避けていては
本当の意味での成長も、本当の幸福も得られないのです。
ありのままの自分を見つめることが重要なのです。
本当の自分をありのままに見つめる方法については、以下の記事もご覧ください。
➾2つの自分探しの意味と自分を知る方法
真実と向き合う勇気
物語の中で唯一成長を遂げたのは、息子のビフでした。
彼は父親の期待という重圧から解放され、自分が平凡な人間であることを受け入れました。
「僕は特別じゃない」という彼の言葉は、真実と向き合う勇気の表れでした。
この勇気こそが、人生を変える力になります。
真実と向き合うことは、決して簡単なことではありません。
・自分の能力の限界を認めること、
・理想と現実のギャップを受け入れること、
・他人からの評価に依存している自分を見つめることなどは、
どれも目を背けたくなることですし、痛みを伴うことです。
ですが、この痛みを乗り越え、本当の自分をしっかりと見つめることで、
本当の自由と満足を得ることができるのです。
どんなに苦しい状況でも、自分の運命をどう受け止めるかは自分で決めることができます。
そして、人生のいつの時点からでも、よりよい方向へ向かって生き方を変えることもできます。
ウィリーも、現実を受け入れて新しい生き方を始めるということもできたはずです。
ところが彼は、その勇気を持つことができませんでした。
そもそも、目指す方角も、なんのために生きるのかという生きる意味も
分かっていなかったのです。
では、本当の生きる意味とはどういうものなのでしょうか?
本当の生きる意味とは何か
ウィリーの人生を通して見えてくるのは、他人の評価や息子の成功といった自分の外側にあるものに依存した生き方の限界です。
彼は生涯、自分の外にある何かによって幸福になろうとしましたが、結局それは叶いませんでした。
多くの人は、お金や地位、名誉といった「相対の幸福」を追い求めます。
確かにこれらも生きていく上で必要なものですが、
相対の幸福は主に他人と比較することで感じる幸せであり、永遠に続く幸せではありません。
今日は他人より上でも、明日は逆転されることがあります。
また、能力も体力も年齢と共に衰えていく運命にあるので、ずっと勝ち続けることはできません。
これだけ科学や経済が発展を遂げても、人々の幸福はそれに比例して増えていくわけではありません。
ウィリーもまた、アメリカの繁栄の時代に生きながら、幸福を見つけることができませんでした。
色んなものに恵まれていても、苦しみ悩みの根本原因がなくならない限り、真の満足は得られないのです。
その苦しみ悩みの根本原因をすでに2600年前に発見され、
ウィリーと同じ過ちを繰り返さないように、私たちに教えられたのがお釈迦様でした。
その苦しみ悩みの根元か断ち切られた時、
「人身受け難し、今已に受く
」
「生まれがたい人間に生まれてきてよかった」と心から思える
変わらない幸せになります。
それが本当の生きる意味だとお釈迦様は教えられています。
では、苦悩の根元とはどんなことかというと、
それは、欲望などの煩悩ではありません。
このことは仏教の真髄になりますので、以下のメール講座と電子書籍にまとめてあります。
ぜひ一度見てみてください。
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この記事を書いた人

長南瑞生
日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部で量子統計力学を学び、卒業後、学士入学して東大文学部インド哲学仏教学研究室に学ぶ。
仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか1人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。たまたまインターネットの技術を導入して爆発的に伝えられるようになり、日本仏教学院を設立。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと今も奮戦している。
仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者4千人、メルマガ読者5万人。X(ツイッター)(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能。
著作
- 生きる意味109:5万部のベストセラー
- 不安が消えるたったひとつの方法(KADOKAWA出版)