色即是空とは?
「色即是空」とは、
『般若心経』に「色即是空 空即是色」
と出てくる有名な言葉です。
この色即是空の意味が本当に分かれば、大変な恐ろしい意味だということが分かります。
そしてそれは、生きる意味・生きる目的を知らせるために説かれたことなのです。
一体どんな意味なのでしょうか?
この記事では、
・色即是空を知る予備知識
・空の意味
・空についての龍樹菩薩の解説
・色即是空が私たちの人生にもたらす意味
について分かりやすく解説しますので、その怖さがお分かり頂けると思います。
色即是空の意味
「色即是空」の意味を辞書で調べると、このように出ています。
色即是空・空即是色
しきそくぜくう・くうそくぜしき[s:rūpaṃ śūnyatā/śūnyataiva rūpam]
<色>(rūpa)は、いろ・かたちあるもの、現象する対象、物質的な存在の総体をいい、いっさいを五蘊(五つの集まり)に分かつその第1で、単に<もの>とみなしてもよい。
<もの>に関して、通常はそれが<そのもの>として実在しているという素朴な日常的な考えを、このフレーズは根底から否定し、<そのもの>が現象し存在しているとするのには、それを成立させ得る主体的・客体的なあらゆる諸条件が充全に備わってはじめて可能であることを明らかにする。
すなわち、<もの>はそれ自体が実体として現象し存在するのではないことを<色即是空>といい、また実体としてではなくて、諸条件に支えられているからこそ、<そのもの>が<そのもの>として現象し存在することを<空即是色>と説く。(引用:『岩波仏教辞典』第三版)
この辞書の説明では、分かっている人が見れば、
かろうじて間違ってはいないのかな?とも見えますが、
色即是空・空即是色の意味を知らない人が、この文章を読んで意味が分かるというには、
かなり無理があるのではないでしょうか。
色即是空・空即是色の意味を知らない人が分かるように、
この記事ではもっと分かりやすく解説していきます。
色即是空を理解するための基礎知識
「色即是空」の意味をよく理解するには、
まず、この世のすべての成り立ちを知らなければなりません。
「この世のすべてはどのようにしてできているのか」について、
仏教では、このように教えられています。
一切法は因縁生なり。
(引用:『大乗入楞伽経』)
「一切法」とは、万物であり、この世のすべてですので、
「すべてのものは因と縁がそろってできている」
ということです。
図解するとこうなります。
┌─┐ ┌─┐
│因├┬┤縁│
└─┘│└─┘
┌┴┐
│果│
└─┘
因だけでも結果は生じませんし、
縁だけでも結果が生じることはありません。
必ず因と縁が必要です。
例えばこの図で、結果が米ならば、
「因」はモミダネです。
「縁」は水分や空気、温度です。
それらが調和して、米という「結果」を生み出します。
┌─┐ ┌─┐
│因├┬┤縁│
└─┘│└─┘
籾種┌┴┐水
│果│空気
└─┘温度
米
米以外にも、この世の中のすべては因縁がそろってできています。
例外は認めません。
ただし、結果は因と縁によって変わっていきます。
結果が変わる要素とは
米でも、因であるモミダネの品種が色々あります。
それによって、
コシヒカリができたり、
あきたこまちができたり、
ササニシキができたり、
結果が色々変わります。
また、縁についても、
新潟県の魚沼産なのか、
福井県産なのか、
東京の田んぼでできたのか、
その年の気温や天候、
育て方の方式など、
色々ありますから、
結果は千差万別、色々変わってきます。
しかしながら、一切は因縁がそろってはじめて結果が生じます。
これに例外はありません。
太陽でも地球でも因縁によって生じています。
これが、仏教の根幹「因果の道理」です。
因果の道理について詳しくは下記をご覧ください。
➾因果応報の意味とは。恋愛における実話と運命の法則
生滅のプロセス
結果が消滅するのは、因と縁が消滅したときです。
それは無になるのではなく、滅するままで生じるということです。
これを「生滅」といいます。
そして「成住壊空」を繰り返します。
成
/ \
空 住
\ /
壊
「成」とは、因縁がそろって結果が生じることです。
「住」とは、生じたものが、しばらくの間ある、ということです。
諸行無常ですから、永遠にあることはできません。
「壊」とは、壊れる、ということです。
今までの結果はなくなりますが、因と縁がなくなるのではありません。
因縁が変化して、今までの結果がなくなるということです。
ですから「無」になるのではなく、
これを「空」といいます。
夫婦なら、今は因縁あって結婚していますが、
離婚すれば夫婦という結果はなくなります。
しかし、無になるわけではありません。
独身男性と独身女性はいます。
そしてまた別の人を探し始めます。
やがてまた別の人と再婚して苦しみます。
そしてまた離婚して、独身の人々になって、また新しい相手を探して……
と成住壊空をぐるぐるくり返します。
太陽も地球も、すべてのものは、成住壊空を繰り返しています。
これが仏教の根幹の因果の道理から明らかにされていることです。
仏教以外の宗教では?
ちなみにキリスト教では、最初の原因として、
すべては神が創ったと教えます。
「では神の原因は?」と聞くと
困ってしまいます。
これはどう説明しても、
「すべての結果には必ず原因がある」
という因果の道理に反してしまいます。
仏教では何が始まり、ということはありません。
成住壊空が果てしなく回って無始無終です。
このように、仏教では、因果の道理を根幹として、
この世の一切は、因と縁がそろってはじめて生じると教えられています。
空の分かりやすい3つの具体例
これを分かりやすく解説すると、よくこのような歌の例で説明されます。
引き寄せて 結べば柴の 庵にて
解くれば元の 野原なりけり
(慈円作)
「庵」とは、テントのようなものです。
この庵という結果は、なぜできたかというと、
柴を因として、
引き寄せて結んだことを縁として
できたということです。
┌─┐ ┌─┐
│因├┬┤縁│
└─┘│└─┘
柴┌┴┐結ぶ
│果│
└─┘
庵
ですから結んだところが解けると、
庵はなくなって、元の野原になります。
キャンプ場にいってテントをはるときには、
テントの骨や布や杭やロープを持って行きます。
キャンプ場で骨組みを作って、杭を打って、布をはって、テントになります。
キャンプが終わると、杭を抜いて、布や骨組みをたたんで、
テントはなくなり、元のキャンプ場になります。
車でも同じです。
エンジンとか、ハンドルとか、タイヤとか、ラジエーターとか、何万という部品が因です。
それを組み立てるのが縁です。
因縁がそろって車といわれますが、
ばらばらになると、もう車とはいいません。
飛行機でも同じです。
何十万という部品が組み立てられて、飛行機になりますが、
ばらばらになると、飛行機とはいいません。
さらに、ばらばらにした部品でも同じです。
例えば車のエンジンでも、ピストンとか、タイミングベルトとか、色々な部品でできています。
バラバラにしてしまうとエンジンとはいいません。
こうしていくと、どこにも固定不変の実体はありません。
私でも、因縁がそろって私であって、
因縁が離れると、私ではありません。
車でも、飛行機でも、私でも、この世の一切に、変わらない実体というものはありません。
これを仏教では、「空」といいます。
「色即是空」が説かれているのは『般若心経』ですが、その他の『般若経』では、よく「一切皆空」とも説かれています。
この世の一切は、皆空であり、変わらない実体はない、ということです。
これは何もない無とか、中身が空っぽということではありません。
変わらない実体というものはない、ということです。
龍樹菩薩の空の解説
空について詳しく教えられた龍樹菩薩(ナーガールジュナ)は、『中論』にこのように教えられています。
これは、『中論』の核心とされる、第24章の18番目の詩です。
因縁所生の法、我即ちこれ空なりと説く。
(引用:龍樹菩薩『中論』第24章)
因縁がそろって生じたものを空という、ということです。
同じことを『大智度論』にも教えられています。
この法、皆因縁和合より生ずるが故に無性なり。
無性なるが故に自性空なり。(引用:龍樹菩薩『大智度論』)
これも『中論』と同じことが教えられていますが、因縁がそろって生ずるものがなぜ空なのか、もう少し詳しく教えられています。
「この法、皆」とは
「この法、皆」というのは、この世のすべては、ということです。
この世のものすべては、因縁和合より生じるというのは、因と縁がそろって生じるということです。
「無性」「自性空」とは
「無性」というのは、実体がないことで、これを「無自性」ともいいます。「自性空」も同じ意味ですから、この世の一切は、因縁がそろって生じているので、実体がない、というのが空ということです。
「空」と「色」とは
「色即是空」の「空」も実体がないということなので、
色、即ちこれ空なり、というのは、色には実体がない、ということです。
では、「色即是空」の「色」は何かというと、物質のことです。
この世のすべてが空ですから、もちろん物質も空です。
物質は、すなわち空だということは、
いつまでも変わらないテントや車という実体はない、
因縁がそろっている間だけ、テントや車というものが存在する、
ということです。
空即是色の意味
次に「空即是色」はどういう意味でしょうか。
それは、空であるからこそ、物質が存在できる、ということです。
もし空でないとすれば、自性がある、ということになります。
「自性」とは、分かりやすくいえば実体ということです。
実体とは、因縁がそろって一時的に成立しているのではなく、
他のものを必要とせず、それ自体で成り立っているものです。
そんな物質があれば、他のものと関係がないですし、それの原因もありません。
原意がないですから、それは存在しなくなります。
例えば、ある壺が空ではなかったとすれば、
壺に実体があるということです。
実体というのは、それ自体で成り立っているものですから、原因がありません。
ろくろのような作った道具もなければ、作った人もいないので、
そもそもそんな壺が存在しなくなります。
壺が空ではないとすると、壺は成立しなくなってしまうのです。
また別の角度から見れば、もしそれ自体で成り立っていて、他のものと関係ないなら、それは変化することもできません。
変化がないとすれば、生ずることもできなければ、滅することもできません。
もし空でなければ、因もなければ変化もなく、生ずることができないため、物は存在できないのです。
例えば壺なら、空ではなく、実体があるとすれば、壺は壺自体で成り立っているので、他の力でできたのではありません。
したがって、外から力をかけて変化することはありません。
変化しないとすれば、生じることもないので、そもそも壺ができないのです。
このように、空ではないとすると、物はなくなってしまいます。
空であるからこそ、一切の物は存在できるわけです。
それを「空即是色」と教えられているのです。
このように因果の道理を教えられたのが、
「色即是空 空即是色」です。
この世のすべては因縁がそろって生じているから、
あらゆるものに実体はなく、空なのです。
あらゆる物に実体がなく、空であるからこそ、
この世のすべては存在できるのです。
これは大変恐ろしいことです。
色即是空の恐ろしさ
この世のどこにも固定不変の実体はないので、因縁が離れたら、結果はなくなります。
それなのに私たちは、空ということが分からないので、
いつまでも変わらないと思っています。
そこに執着が起きて、苦しみます。
自分のお金は、「これはいつまでも自分のお金」と思っています。
しかしそれは因縁がそろっている間だけのことで、
因縁が離れると、そのお金は他人のものとなって、苦しみます。
自分の家は、いつまでも私の家と思っています。
ところが火事や地震がくれば、
因縁が離れて私の家はなくなってしまい、
非常に苦しみます。
さらに家よりも重大なことについて、『中阿含経』にこのように説かれています。
なお材木により泥土により水草により空を覆いつつみ、すなわち屋の名を生ずるが如く、 諸賢まさに知るべし。この身もまたまたかくの如し。
筋骨により皮膚により肉血により空をまといつつみ、即ち身の名を生ず。(引用:『中阿含経』)
これは、ちょうど材木、泥や土、水や草が空間に組み合わさって、家と呼ばれているように、この身体も同じようなものだ。
筋や骨、皮膚、肉や血が空間に組み合わさって身体と呼ばれている、ということです。
私の肉体や命は永遠にあると思っていますが、
家が因縁が離れたらなくなってしまうように、
やがて老いや病気、事故など、縁がくれば、
因縁が離れて肉体はなくなり、人生は終わります。
このように、仏教では、教えの根幹である因果の道理によって
やがて必ず終わって行く、ありのままの人生のすがたを教え、
苦しみ悩みの根本原因と、
生まれてから死ぬまでに果たさなければならない
本当の生きる目的(生きる意味)を教えられています。
(執着は煩悩ですから、煩悩でできている煩悩具足の私たちには、
なくすことはできません。別の方法が必要です)
色即是空と聞くと全てのものは実体がないのだから、人生にも「生きる意味はない」と捉える人もいますが、全く違います。
生きる意味・生きる目的を教えるために色即是空は説かれているのです。
その苦しみ悩みの根本原因と、本当の生きる目的については、
電子書籍とメール講座にまとめてあります。
以下からご覧ください。
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この記事を書いた人
長南瑞生
日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか1人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。たまたまインターネットの技術を導入して爆発的に伝えられるようになり、日本仏教学院を設立。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと今も奮戦している。
仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者4千人、メルマガ読者5万人。X(ツイッター)(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能。
著作
- 生きる意味109:5万部のベストセラー
- 不安が消えるたったひとつの方法(KADOKAWA出版)