地獄とは?
『地獄草紙』
地獄とはどんな世界なのでしょうか?
「地獄」というのは、中国の言葉で、インドの言葉では、
「捺落迦」と言われます。
日本語でも「奈落の底」といわれるときの
「奈落」という言葉となって使われています。
地獄は、私たちが、生まれ変わり死に変わり、輪廻転生する世界でも、最も苦しみの激しい世界です。
そして最も転生する可能性が高い世界でもあります。
では地獄とは一体どんな世界なのでしょうか?
地獄とは
地獄とは何か、参考までに辞書の意味を見てみましょう。
地獄
じごく[s:naraka, niraya]
<奈落><泥犂(梨)>などの音写語がある。
悪業を積んだ者が堕ち,種々の責苦を受けるとされる地下世界の総称。
破戒などの罪を犯した者が死後に赴くとされる最も苦しみの多い生存状態。
三悪趣・五趣・六道・十界の一つ。
【八熱地獄・八寒地獄】
経典にはさまざまな地獄が説かれるが、等活より阿鼻に至る<八熱地獄>(八大地獄)と、極寒に苦しめられるという<八寒地獄>が特に知られる。
他に八熱の各地獄に付随する<増地獄>(副地獄)、地獄の各所に散在するという<孤地獄>などがあるという。(引用:『岩波仏教辞典』第三版)
上記内容では、地獄がどのようなものかあまり分かりませんので、詳しく解説します。
地獄はどこにある?
キリスト教では、地下に地獄という場所があり、神を信じない人は、死んだら地獄へ行くそうです。
イエスも地下にある地獄に降りていったと伝えられています。
ところが仏教では、どこかに地獄という場所があるのではありません。
自らが生み出す苦しみの世界です。
ですから、軽業師なら針の山もへっちゃらで、ボクシングのヘビー級チャンピオンなら地獄の鬼とも互角に渡り合って、オリンピックの水泳選手なら血の池でも大丈夫と思うかもしれませんが、どんなに運動神経がよくても、地獄の苦しみをかわしたり、逃れることはできません。
地球の地下にあるのなら、ロケットで月にでも行けば堕ちないかと思っても、逃れられません。
まったく同じ町に住んでいても、ある人は、受験地獄に苦しみ、またある人は、借金地獄に苦しみます。
それは、場所が悪いのではなく、自らのたねまきが生み出した報いなのです。
地獄は死後にある?従苦入苦 従冥入冥
それについてお釈迦様は、『大無量寿経』にこう説かれています。
従苦入苦 従冥入冥
(引用:『大無量寿経』)
「苦より苦に入り、やみよりやみに入る」
と読みます。
今苦しんでいる人は、死んだ後もジゴクの苦を受ける。
この世のジゴクから、死後の地獄へと堕ちてゆく、という意味です。
この世の地獄で苦しんでいるので、その結果、死後の地獄に堕ちていくのです。
この世の地獄とは?
この世のジゴクとは、
何のために生きているのか分からず、
毎日が不安で暗いことをいいます。
「人間に生まれてよかった」という生命の歓喜がなく、
「私ほど業なものはない」と他人を恨み世間を呪い、
「こんな辛いのなら死んだ方がましだ」
と苦しむ暗い生活が、この世のジゴクです。
ですから、この世のジゴクを「自業苦」と書くこともあります。
このような現在が真っ暗闇の生活を送っている人は、死後も必ず真っ暗闇の地獄へ堕ちて苦しまねばならないことを苦より苦に入り、やみよりやみに入る、と説かれています。
では、死後の地獄とはどんな世界なのでしょうか?
死後の地獄の種類は?
死後の地獄には、八熱地獄、八寒地獄、孤地獄がありますが、
「八大地獄」といわれるのは、八熱地獄のことです。
八大地獄とはどんな地獄かというと、
お釈迦様は、『長阿含経』にこのように説かれています。
八大地獄あり。(中略)
第一の大地獄を想と名づけ
第二を黒縄と名づけ
第三を堆圧と名づけ
第四を叫喚と名づけ
第五を大叫喚と名づけ
第六を焼炙と名づけ
第七を大焼炙と名づけ
第八を無間と名づく。
(漢文:八大地獄 第一大地獄名想 第二名黒繩 第三名堆壓 第四名叫喚 第五名大叫喚 第六名燒炙 第七名大燒炙 第八名無間)(引用:『長阿含経』)
色々なお経や菩薩の論、高僧の釈をまとめられ、日本で一番親しまれている源信僧都の『往生要集』の言葉遣いでは
1.等活地獄、
2.黒縄地獄、
3.衆合地獄、
4.叫喚地獄、
5.大叫喚地獄、
6.焦熱地獄、
7.大焦熱地獄、
8.阿鼻地獄(無間地獄)
の8つの地獄となります。
その様子は、お釈迦様の説かれた『正法念経』や『観仏三昧経』などのお経、
龍樹菩薩の『大智度論』や
無著菩薩の『瑜伽論』、
天親菩薩の『倶舎論』など、菩薩の書かれた論によって、
また源信僧都の『往生要集』に詳しく教えられています。
それぞれどんな苦しみの世界なのでしょうか?
八大地獄のありさま
1.等活地獄
八大地獄の中で最も苦しみの軽い地獄が等活地獄です。
殺生罪によって、等活地獄に堕ちます。
この等活地獄に堕ちた人は、お互いに顔を見合わせると憎しみが沸いてきて、つかみ合いのケンカを始めます。
みんな手に鉄の爪が生えて、鋭い刀のように相手をひっかき合い、鮮血はあたりに飛び散り、果ては肉もなくなるまで争います。
白骨だけが残ると、そこへ獄卒がやってきて骨を粉々に砕きます。
すると、一陣の凉しい風が吹いて、どこかで「活!活!」と叫ぶ声がします。
この声を聞くと粉々になった骨がいつの間にかくっついて、元の骨組みになり、辺りに飛び散っていた血や肉もたちまち、元の身体になります。
そしてまた、鉄の爪でひっかき合って、苦しみが絶えない世界です。
それがどれくらい続くかというと、人間界の900万年を一日一夜にして500歳の寿命と説かれているので、約1兆6千億年という気の遠くなるような長さです。
2.黒縄地獄
殺生罪に加えて偸盗罪も造ると、次の「黒縄地獄」に堕ちます。
ここでは獄卒の鬼が、罪人を熱鉄の地に臥せて、熱鉄の縄を縦横に押しつけ、その縄に随って熱鉄の斧や鋸をもって引き裂くと説かれています。
また、険しい断崖絶壁の上に連れて行かれ、真っ赤に焼けた鉄の縄でがんじがらめに縛られて、刀の生えた熱い地面に突き落とされ、火を吐く犬に食われます。
食い尽くされると生き返り、また断崖絶壁の上に連れて行かれ、突き落とされることを繰り返します。
投身自殺をした人はここに堕ちます。
黒縄地獄の期間は、等活地獄の8倍、苦しみは10倍です。
3.衆合地獄
さらに邪淫の罪を犯すと「衆合地獄」に堕ちます。
ここでは2つの石山の間に追い込まれて押しつぶされたり、砥石にかけられたり、鉄臼で餅のようにつかれたりします。
この地獄の木の上には、美女がいます。
「あなたを慕ってここまで来たのに、どうして来て抱いてくださらないの?」
というので、木に登ろうとすると、葉がカミソリのように鋭く、ずたずたに切り裂かれます。
血だらけになりながら木の上にたどりつくと、美女は木の下にいます。今度は降りようとすると、またカミソリの葉に切り裂かれ、これを永遠に繰り返します。
これを刀葉林地獄といいます。
また、未成年に対して強制わいせつを働いた人は、自分の子供がいます。
その自分の子が、鬼に鉄の杖やキリやかぎ爪で局所を刺され、釘打たれています。
それを見せつけられて、自分が火に焼かれる何倍も苦しみます。
期間は、黒縄地獄の8倍、苦しみは10倍です。
4.叫喚地獄
さらに飲酒をした人は、「叫喚地獄」に堕ちます。
ここでは、鬼に責めたてられながら、熱い地面でいられたり、あぶられたり、大鍋に投げ込まれ煎じ煮られたりします。
口を鉗子で開けられて、どろどろに赤く溶けた銅を流し込まれ、五臓六腑を焼かれます。
「なんと無慈悲なんだ、こんなに苦しんでいる私をなぜそんなにいじめるんだ」
と鬼を恨み、許しを請うと、
「自分で造った悪業の報いなのに、なぜオレを恨む」
とますます怒り、
「悪い行いをする前に恐れてやめればよかったのに、なぜ悪い事をした、今更後悔しても遅いのだ」
と決して許されません。
期間は衆合地獄の8倍、苦しみは10倍です。
5.大叫喚地獄
さらに嘘をつくと、「大叫喚地獄」に堕ちます。
ここでは、焼けた鋭い針で舌を突き刺され、声を出すことができません。
その上ではさみで舌を抜かれます。
舌が抜けると、また生えてきます。
目もくりぬかれます。
期間は叫喚地獄の8倍、苦しみは10倍です。
6.焦熱地獄
さらに邪見の罪によって「焦熱地獄」に堕ちます。
ここでは熱鉄の地面に寝かされ、せんべいか肉団子のように叩きつぶされ、熱い鉄鍋であぶられます。
あるいは下から上まで串刺しにされ、焼き鳥のように焼かれます。
大火災の中に投げ込まれ全身の穴という穴から火を噴き始めます。
この地獄の火に比べると前の5つの地獄の火は雪か霜の如しと説かれています。
ということは、地獄の業火をガソリンで火だるまになっているようなものだとすれば、焦熱地獄の業火は、原爆のようなものです。
7.大焦熱地獄
さらに、戒律を守っている比丘尼を誘惑すると「大焦熱地獄」に堕ちます。
ここは至るところ火で燃えています。
燃えていないところは針の穴ほどもありません。
普通の火なら消すことができますが、地獄の炎は不滅の業火ですので、消すことができません。
薪や枯れ草のように焼かれます。
また、炎の刀で皮膚をはぎとられ、肉を火で焼かれた上に、赤くぼこぼこ沸騰した鉄を注ぎかけられます。
大焦熱地獄は、焦熱地獄のさらに10倍の苦しみです。8.阿鼻地獄(無間地獄)
さらに、親殺しの五逆罪や、仏法を謗る謗法罪を犯した者は、
「阿鼻地獄」に堕ちます。
阿鼻地獄に堕ちると、手足の節々から火炎が吹き出し、その苦しみがひまなくやってくるので、「無間地獄」ともいわれます。
この地獄の寿命は8万劫です。
1劫は、4億3200万年ですから、その8万倍です。
その間、片時も休む間なく、大焦熱地獄の1000倍の大苦悩を受け通しとなります。
その苦しみを『正法念経』には、大きな火が身を焼く苦しみをひとすくいの水とすれば、阿鼻地獄の苦しみは、大海のようなものだと教えられています。
もし大海の中にして、唯一掬の水を取らんに、此の苦は一掬の如く、後の苦は大海の如しと。
(漢文:如於大海中 唯取一掬水 此苦如一掬 後苦如大海)(引用:『正法念経』)
このような、最も苦しみの激しい無間地獄・阿鼻地獄について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
➾無間地獄・阿鼻地獄とは?苦しみと刑期
八大地獄をまとめるとこのようになります。
八大地獄 | 堕ちる行い |
---|---|
等活地獄 | 殺生 |
黒縄地獄 | 殺生、偸盗 |
衆合地獄 | 殺生、偸盗、邪淫 |
叫喚地獄 | 殺生、偸盗、邪淫、飲酒 |
大叫喚地獄 | 殺生、偸盗、邪淫、飲酒、妄語 |
焦熱地獄 | 殺生、偸盗、邪淫、飲酒、妄語、邪見 |
大焦熱地獄 | 殺生、偸盗、邪淫、飲酒、妄語、邪見、比丘尼を誘惑 |
阿鼻地獄(無間地獄) | 五逆、謗法 |
八寒地獄と狐地獄
八寒地獄について、源信僧都は『往生要集』の中で、省略されています。
また頞部陀等の八寒地獄あり。
つぶさには経論のごとし。
これを広述するに遑あらず。
(漢文:復有頞部陀等八寒地獄 具如經論 不遑廣述之)(引用:『往生要集』)
これは「また、 頞部陀などの八寒地獄がある。
詳しくは、 経・論に説いてあるとおりである。
今、 これを述べるいとまがない」
という意味です。
八寒地獄については、この記事でも長くなりすぎるので、簡単に解説しておきます。
八寒地獄の種類は、頞部陀、尼剌部陀、頞哳陀、臛臛婆、虎虎婆、嗢鉢羅、鉢特摩、摩訶鉢特摩があります。
頞部陀では、寒さによって身体にはれものができます。
尼剌部陀では、それが潰れます。
頞哳陀、臛臛婆、虎虎婆では、寒さのため「あたた」等の声しかでません。
嗢鉢羅、鉢特摩、摩訶鉢特摩では、極寒で身体が破れ流血し、それぞれ青蓮華、紅蓮華のような様相になります。
そして孤地獄は、各地に散在している地獄です。
これらの地獄の苦悩とはどれくらい大きいのでしょうか?
地獄の苦しみの程度
地獄の苦しみがどのようなものなのか、ある時、お弟子がお釈迦さまにお尋ねすると、このように答えられています。
世尊、地獄の苦はいかん。
世尊答えて曰く「比丘よ、地獄は説き尽くすべからず。いわゆる地獄は苦なり」と。
(漢文:世尊地獄苦云何 世尊答曰 比丘 地獄不可盡説 所謂地獄苦)(引用:『中阿含経』巻第五十三)
地獄の苦しみは説き尽くせないほど激しいということです。
パーリ仏典では、お釈迦様は『賢愚経』に、このように説かれています。
諸の比丘よ、如何なる喩と雖も、如何に地獄の苦なりやを説くこと能はず。
(引用:『中部経典』129賢愚経)
これは、どんなたとえを使っても、地獄の苦しみは説けない、ということです。
それでも弟子たちは、
「何とかたとえでなりとお教え頂けないでしょうか」
とお願いすると、お釈迦様は、このようなたとえで教えられています。
「朝100本の槍で貫かれ、
昼100本の槍で貫かれても死なず、
晩にまた100本の槍で貫かれ、
毎日300本の槍で貫かれて、
もう体につながった処のない程になる。
その苦しみをどう思うか?」
「わずか一本の槍でつかれた痛みさえ、どんなに苦しいか分かりません。
ましてや1日300本でつかれる苦しみは心も言葉も及びません」
すると、お釈迦様は豆粒ほどの小さな石を拾われて、
「この石と向こうにみえるヒマラヤ山とどれ程違うか」
「それは、大変な違いでございます」
「毎日300本の槍で貫かれる苦しみを、この石だとすれば、地獄の苦しみはあのヒマラヤ山のごとしだ」
と言われています。
これでは私たちに、地獄の苦しみを分からせることは、私たちが犬や猫にテレビやパソコンの説明をするよりも、大変なことであったに違いありません。
地獄と聞くと、虎の皮のフンドシの鬼や釜ゆでの釜や、針の山、血の池を想像して、そんなもの子供だましのおとぎ話だと、あざけったり笑ったりするのは、苦しみをあらわす表現であることを知らないからです。
自業自得の因果の道理によって、自ら生み出す世界が地獄なのです。
そしてこの果てしない苦しみから離れる方法が仏教に教えられているのです。
地獄の苦しみから逃れる方法
今回は、地獄とは何か、地獄の種類について解説しました。
地獄とは、この世のどこかに世界があるのではなく、
自分で造った業によって生み出されます。
その地獄はどのような世界かというと、八大地獄(八熱地獄)や八寒地獄として詳しく教えられています。
そして地獄の苦しみの大きさは「どんな喩えでも喩えられない」とお釈迦様は教えていかれました。
私たちはこれまでに自分で造った悪業によって、地獄へと墜ちてしまいますが、その果てしない苦しみから逃れる方法があります。
それは仏教の真髄ですので、電子書籍とメール講座にまとめておきました。
一度目を通しておいてください。
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この記事を書いた人
長南瑞生
日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか1人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。たまたまインターネットの技術を導入して爆発的に伝えられるようになり、日本仏教学院を設立。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと今も奮戦している。
仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者4千人、メルマガ読者5万人。X(ツイッター)(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能。
著作
- 生きる意味109:5万部のベストセラー
- 不安が消えるたったひとつの方法(KADOKAWA出版)