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和顔愛語とは?

和顔愛語わげんあいご」とは、和やかな笑顔をたたえ、優しい言葉を話すという意味です。
年を取ると笑顔が減る」といわれるので、和顔愛語ができる人は貴重な存在です。
よく座右の銘としても使われます。
和顔愛語」はどのような心がけなのでしょうか?

和顔愛語の意味

和顔愛語」は、お釈迦様のお言葉です。
和顔」とは和やかな顔ということで、穏やかな笑顔、
愛語」とは愛情のこもった言葉ということで、優しい言葉ですから、
和顔愛語」は、穏やかな笑顔と優しい言葉で人と接する、という意味です。
和顔愛語」は禅語ともいわれますが、
出典は、浄土真宗で重視される『大無量寿経』というお経
和顔愛語」と説かれています。

ことわざでも
笑う門には福来る」とか、
情けは人の為ならず」といったように
笑顔をすれば幸福になり、他人に優しく接すれば、まわりまわって自分のためになる、といわれます。
仏教では「和顔愛語」には更に深い意味がありますが、
笑顔や優しい言葉は、相手も自分も幸せになるためにとても大切な心がけです。

和顔の時は愛語となりやすく、
愛語の時は和顔となりやすいので、
和顔」と「愛語」は互いに深く関係しています。
そこで「和顔」と「愛語」の2つに分けて、1つずつ解説しますが、
その前に「和顔愛語は大人になると減る」という興味深い話があります。

大人ほど和顔愛語が少なくなる

モアイ像
モアイ像

あなたは最近、心からの笑顔で接したり、温かい言葉を発したりしていますか?

もし和顔愛語がなければ、はたから見ると、イースター島のモアイのように見えています。
ずっと無表情で黙っているだけです。

しかし、それもあなたが大人であれば、無理はないかもしれません。
子どもは1日に400回笑うのに対して、大人はわずか11回~15回しか笑わない」とか、
大人になる過程で笑う回数は、30分の1以下に激減する」ともいわれています。
言われて見れば確かに、小学校の頃は、思いっきり笑っていたような気がしませんか?
それがだんだん、苦しいことがたくさんあって、笑顔が減ってきます。
大人ともなれば、笑顔をする余裕がなくなるのかもしれません。
大人ほど、心がけなければ、和顔愛語をするタイミングはやって来ないのです。

また私たちは、普段、相手の欠点や自分の不満ばかりに意識が向きがちです。
気を付けていないと、口から出るのは不満と愚痴ばかりになります。
和顔愛語のない人生はどうなるのでしょうか?

和顔愛語がない人生

和顔愛語のない人生は悲劇を生みます。
例えば、笑顔や優しい言葉のない状態での子育ては、子供は次第に人を信頼できなくなり、心を閉ざしてしまうという研究結果があります。
子どもに対して、大きな不安を与えるからです。

子供だけでなく大人でさえも、笑顔のない人や愚痴や悪口ばかりの人のもとに人は集まりません。
一緒にいて気分がよくない上に、疲れるからです。

カブトムシ
カブトムシ

例えば一緒に食事をした相手が、カブトムシやクワガタムシのように食べていたらどうでしょう。
カブトムシやクワガタムシは、触覚を動かしているだけで、表情一つ変えず、一言もしゃべりません。
彼らは黙って樹液に集まっていますが、やがてお腹いっぱいになると、
突如、バッと飛んで行ってしまいます。
そんな人と一緒に食事をしたいとは思わないでしょう。

和顔愛語のない人生は、周囲を暗くするだけではなく、
自分自身も孤独な状態にしてしまうのです。
ひとりぼっちの暗い人生を避けるためにも、和顔愛語の心がけが重要になってきます。
どのように心がければいいのでしょうか?

和顔愛語の心がけ

最初から笑顔の人はありません。
ただじっと座っていれば、普通は笑顔ではなく真顔になっています。
私たちは意識しなければ笑顔ができませんので、笑顔をすればエネルギーを使い、疲れることもあります。

しかし大変な分、やった人には善果が返ってきます。
笑顔の人は周囲を明るくし、笑顔の人が集まってきます。
呼べば呼ぶ 呼ばねば呼ばぬ 山彦ぞ
  まず笑顔せよ みな笑顔する

という古歌もあります。
お釈迦様は、とても大事な善行として、仏道修行の一つにも挙げられ、
日常生活の中で、実践しなさいと勧められました。

愛語も同様です。
優しい言葉をかけようとしなければ、出てくるのは悪口ばかり。
先輩や同僚から、いつも悪口を聞かされてるなーと思っている人は、類は友を呼ぶで、
振り返ったら自分も、誰にも優しい言葉をかけずに悪口や愚痴で1日が終わっていることも。
今まさにしっかりと反省し、和顔愛語の人生を手に入れましょう。
赤ちゃんの頃はニコニコ笑っていたのですから、必ず笑顔になれるはずです。

赤ちゃんの笑顔

しかし、必ずしも赤ちゃんの頃のような笑顔でいればいいわけではありません。
赤ちゃんはちょっとしたことでもニコニコと笑い、周囲を和ませます。
素晴らしいことです。
一方で、機嫌が悪くなるとすぐに笑顔が消え、泣き叫びます。

大人になれば、この点をグッと我慢しなければなりません。
どんな状況であっても、自分の感情に左右されず、
常に笑顔や優しい言葉を言うことを心がけるということが、
本当の和顔愛語の実践です。
感情に左右されていては、まだまだ心が成長できていない証拠とも言えます。

ではどうすれば、和顔愛語ができるのでしょうか。
ここからは「和顔」と「愛語」に分けて見ていきましょう。
まず和顔です。

和顔とは

和顔愛語」の「和顔」は優しい笑顔です。
笑顔には、他人も自分も幸せにする力があります。
それはどんな力なのでしょうか?

笑顔と気品

日本女性の気品』という本を書かれた服部和子さんの座右の銘は「和顔愛語」です。
自分の感情に左右されずに、和顔愛語の実践をすることで、
周囲も明るくし、自分にも気品が身につくからでしょう。
女性も男性も気品のある人は、信頼感や安心感があり、多くの人やものが集まります。
人としてのあり方を考える上で、和顔愛語はぜひ取り入れるべき振る舞いなのです。

1950年代に一世を風靡した俳優、マリリン・モンローはこう言っています。

マリリン・モンローマリリン・モンロー

笑顔は、どんな子もまとえる最高のメイクアップよ。
“A smile is the best makeup any girl can wear.”
(マリリン・モンロー)

まことにその通りで、
笑顔によって女性も男性も、一段と輝きを増します。
そして、気品ある雰囲気も身にまとえるようになるのです。

気品を身にまとう以外にも、笑顔にはさまざまな力があります。

笑顔の科学的な効果

笑顔には様々な効果があることが、科学的にも分かっています。

好印象を与える

日常におけるコミュニケーションをする場合でも、笑顔をすれば相手に好印象を与えることができます。
人と人とのコミュニケーションにおいて、視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%のウェイトで影響を与えているというメラビアンの法則があります。
日常会話や、商談の時、笑顔をすることで第一印象がとても良くなります。

周囲を和ませる

脳にはミラーニューロンがあり、他人の行動を通して、自分の行動のように感じることができます。
自分の笑顔は他人に伝播し、自分だけでなく他人をも幸せにします。

ストレスの軽減

笑顔は気持ちだけでなく、身体の免疫力も上がります。
笑顔が、ストレスホルモンの1種であるコルチゾール値を低下させ、
ストレス解消効果によって、生活習慣病予防になるといわれます。
また、ストレスの軽減により、脳の海馬を活性化させたり、
脳への血液の流れを促進し、記憶機能を向上させる効果があるとされます。
ひいては認知症予防につながると考えられています。

免疫力が上がる

免疫力とは、ウイルスやがんなどの病気から、体を守ってくれる仕組みです。
笑顔によって、特にナチュラルキラー細胞(NK細胞)という、悪い細胞をやっつけてくれる強い味方、
このNK細胞が元気になって、免疫力がアップします。

このように、自分も他人も幸せにする力がある笑顔ですが、どうしても笑顔ができない気分の時があります。
そんな時は、どうしたら和顔を実践できるのでしょうか?

笑顔が苦しい時

どうしてもイライラしている時は、怒った顔で、荒い言葉を発し、
周囲の人を傷つけてしまうこともあります。
自分からではなくても、相手から攻撃的な言葉を受けたら、
売り言葉に買い言葉で、よりひどいことを言ってしまったことがあるかもしれません。
また、大切な物をなくしたとか、大好きな人との別れ、
そんな辛く悲しい状況では、笑顔にはなれず、愚痴を言い、涙に明け暮れるときもあるでしょう。
こんな状況では、本当に和顔愛語を実践するというのは、大変です。

まずは自分自身が笑えるようになるまで、休息やリフレッシュして、気持ちを整えましょう。
自分自身の心に寄り添い、優しく接することも重要です。
他人に対する和顔愛語を自分に向ける気持ちで、労らなければなりません。

一方で、心が伴わなくても、表情だけ笑顔をすることで、笑顔になれることもあります。

表情が心を変える

人は、疲れている時や、落ち込んでいる時には暗い表情をしがちですが、
笑顔をすると気分が上がるといわれます。
これは、心理学者のシルバン・トムキンスによる「顔面フィードバック」と呼ばれ、
顔の表情筋を動かすことで脳が反応し、ドーパミンの作用によって気持ちが高まるというものです。
辛い時に無理にでも笑うと、案外、まだ笑えるなと気づけることもあります。

他人や世の中を変えることは難しいですが、
自分自身を変えることは心がけ一つです。
まずは笑顔をすることで、自分自身が変わり、周りの環境が好転していきます。
和顔愛語を常にするのは大変ですが、習慣になれば苦しくても笑顔でいられ、優しい言葉を使えるようになります。
和顔愛語は日々の努力によって獲得するものなのです。

仏教において和顔愛語は、大きな幸せを生む善根だと教えられています。
修行の一つとも言えます。
すばらしい善いたねまきなので、
心からの笑顔を勧められています。

笑顔は幸せを生み出す善根

お釈迦様は、和顔愛語を繰り返し教えられています。
例えば仏教では、お金や物がなくてもできる施しとして、
無財の七施」を教えられています。
心がけ一つで、いつでもできる7つの善行です。
無財の七施について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
無財の七施とは?どんな功徳があるのか、出典や意味も含めて分かりやすく解説

その一つに「和顔悦色施わげんえっしょくせ」があります。
これは、優しい微笑みを湛えた笑顔で人に接することです。
和顔」とは、穏やかで優しい表情のことを意味します。
悦色」は、清らかで晴れやかな表情であり、
自分の心に曇りや執着がない状態が表情として表れたものです。
優しい表情の実践は、単に形だけ笑顔を作ることではありません。
心から湧き出る温かな優しい気持ちが、自然と表情に表れることが大事です。

仏教では、口や身体でやるだけでなく、心でする善行を大切にします。
修行ですから、嬉しい日も辛い日も毎日やることが重要です。
お釈迦様が勧められていますので、やれば必ず幸せになれます。
日々の心がけ一つで、常に幸せの種まきができるのです。
普段から笑顔を心がけていきましょう。

愛語とは

では次に「和顔愛語」の2番目の愛語です。
愛語とは、優しい言葉です。
愛語にも、ものすごい力があります。
それはどんな力なのでしょうか?

ヘップバーンの魅力的な唇には優しい言葉が宿る

マリリン・モンローと同時代に活躍した「永遠の妖精」オードリー・ヘップバーンはこう言っています。

オードリー・ヘップバーンオードリー・ヘップバーン

魅力的な唇のためには、親切な言葉を話すこと。
"For attractive lips, speak words of kindness."
(オードリー・ヘップバーン)

私たちは話す言葉によって、自分自身の魅力を形作っていくのです。
人々を魅了した俳優たちが、和顔愛語を実践しています。

愛語の周囲を変える影響力

道元は、「愛語」が周囲を変えるほどの影響力があることを
次のように述べています。

愛語は愛心よりおこる、愛心は慈心を種子とせり、愛語よく廻天のちからあることを学すべきなり

愛語は愛心よりおこる、愛心は慈心を種子とせり」とは、
愛語は、愛情のある心から生まれ、愛情のある心は、慈悲心を種としている
という意味です。
愛語よく廻天のちからあることを学すべきなり」は、
愛語には、世の中を変える力があることを知らなければならない
ということです。

犯罪をし続け、これまでどんなに更正されなかった人の心をも変えたエピソードがあります。

死刑囚の心を変える

島秋人(本名:中村覚)は、1934年に北朝鮮で生まれました。
父親は警察官でしたが、戦後は公職追放され、母親も病気で亡くなるなど、貧しい生活を送っていました。
自身も病弱で苦労し、周囲からは「勉強ができない」とみなされ、
どんどん性格がひねくれていってしまいます。

中学を卒業後、強盗殺人未遂などの罪を犯し、少年院に入りました。
その後も放火や強盗殺人を重ね、29歳で死刑が確定します。
獄中で過去を振り返っていた時、人生で一度だけ、
中学1年の担任教師から「絵は下手だが構図がいい」と褒められたことを思い出し、手紙を送りました。
担任教師は、言ったことを忘れていましたが、
たった一言を覚えていてくれたことに感激し、泣きながら手紙を読んだと言います。

その手紙を読んだ教師の妻は、彼に短歌を勧めました。
手紙を通じて短歌の指導を受け、「毎日歌壇」にも入選するようになりました。
島秋人は33歳で死刑が執行されましたが、次のような詩を残しています。
ほめられし ひとつのことの うれしかり
  いのち愛しむ 夜のおもひに

うとまれつつ へし死囚に 旧き師の
  記憶にあらぬ 良き憶ひあり

たった一度褒められたことが、死刑囚の心を救ったのです。

生き抜く力

また、死ぬほど苦しい極限状態でも、言葉の力は有効です。
精神医学者ヴィクトール・フランクルは、第二次世界大戦当時、ユダヤ人という理由で、「アウシュヴィッツ」と「ダッハウ」の強制収容所に入りましたが、
毎日仲間と「冗談」を言って笑い合うようにしたことで、
この極限状況を耐え忍び、生き延びました。
極限状態であっても、和顔愛語でいることを心がければ、
困難な状況を生き抜く力が湧いてくるのです。

他人は簡単には変えられませんが、
愛語は、他人も環境も変えるほどの力があります。

無財の七施の言辞施

お釈迦様は、無財の七施の一つに「言辞施ごんじせ」を教えられています。
父母や先生、仏法者、に対して、柔らかい言葉を話し、乱暴で品のないことを言わないようにするという善行です。
言辞施もすばらしい善いたねまきなので、大きな幸せを生み出します。
その時には、優しい言葉を使うといっても、表面的な言葉ではなく、心から言うことが大切です。

そんなことを急に言われても、
そもそもどんなことを言えばいいか分からないという場合は、
例えば、次のような言葉を、日常で心を込めて言ってみてはどうでしょうか。

  • ありがとう(ございます)
  • 感謝しています
  • おかげさまで
  • お疲れ様です
  • 大丈夫ですか?
  • 何か手伝えることはありますか?
  • 無理しないでくださいね
  • 頑張ってください/応援しています
  • 素敵ですね

感謝の言葉や、応援、褒めるなど、心を込めた優しい言葉は、
相手に伝わり、コミュニケーションがスムーズになります。
ぜひ優しい言葉をかけることを心がけていきましょう。

和顔愛語の原点

このように、和顔も愛語も、他人も自分も幸せにする種まきなのですが、
仏教では、さらにすばらしいことがあります。

和顔愛語は、『大無量寿経』というお経に説かれています。

和顔愛語にしてこころに先んじて承問じょうもんしたまう。
(漢文:和顔愛語 先意承問)

和顔愛語にして」とは、
穏やかな表情で慈愛に満ちた言葉を用いているということです。

意に先んじて承問したまう」とは、
相手の気持ちを先に理解して、よく尋ね、気遣う、という意味です。
自分のことではなく、相手の幸せのためにやることを、利他といわれます。
相手の幸せを念じて、心からの和顔愛語を教えられています。
すると利他のままが自利になりますので、相手も自分も幸せになる自利利他になります。

お釈迦様がこのようにを教えられたのは、
ただ知識として知っておけばいい、という意味ではありません。
正しく理解することは大切ですが、さらにそれを実行しなさい、ということです。

それは何のためかというと、 お釈迦様は、単なる幸せになるためだけでなく、
私たちを本当の幸せに導くために、
和顔愛語を勧められています。

和顔愛語の深い意味

世間では、和顔愛語をすれば、他人も幸せになり自分も幸せになる、という意味で勧められます。
しかし、これらの幸せは一時的な幸せであり、この幸福感は永遠には続きません。

ところが仏教では、永遠に変わらない本当の幸せが教えられます。
この本当の幸福に導くために、仏教では和顔愛語を教え勧められているのです。

では、仏教で教えられる本当の幸せとはどんな幸せで、
どうすればその幸せになれるのかについては、
仏教の真髄ですので、電子書籍とメール講座に分かりやすくまとめておきました。
ぜひ今すぐ確認して、和顔愛語を教えられたお釈迦様の真意を知ってください。

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この記事を書いた人

長南瑞生

長南瑞生

日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか1人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。たまたまインターネットの技術を導入して爆発的に伝えられるようになり、日本仏教学院を設立。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと今も奮戦している。

仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者4千人、メルマガ読者5万人。X(ツイッター)(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能

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