有頂天(天上界)とは?
「有頂天」というと、喜びの絶頂や、エクスタシー、
喜びのあまり舞い上がったり、上の空になっていることをいわれます。
もともと仏教で、私たちが生まれ変わり死に変わりする6つの世界でも、
最も楽しみの多い、「天上界」の一つです。
ここでは
・有頂天の意味
・天上界とはどんな世界なのか
・天上界に生まれる方法
・天上界の種類
・天上界の苦しみは地獄の16倍?
・有頂天から始まる地獄
について分かりやすく解説します。
有頂天の意味
有頂天は、得意の絶頂にあることを言いますが、語源は仏教にあります。
仏教の辞書の意味を見てみますと、以下のとおりです。
有頂天
うちょうてん
天のなかの最高の天の意。
<有頂>(s: bhava-agra)は有(bhava、 存在)の頂き(agra)を意味し、三界(欲界・色界・無色界)のうちの最高の場所(無色界の最高の場所)である<非想非非想処>(非想非非想天)をさす。
またときに色界の最高の場所である色究竟天をさす。
<天>は天界を意味すると同時に、そこに住む者をも意味する。
有頂天に登りつめる、絶頂をきわめるの意から転じて、喜びで夢中になることを<有頂天になる>という。(引用:『岩波仏教辞典』第二版)
端的に言えば、天上界のなかでも最高の場所のことを有頂天と言います。
そのため、天上界がどのようなところかが分からないと、
有頂天が分かったとは言えません。
以下では、天上界について詳しく解説します。
天上界とは神の国・天国
仏教では、私たちは果てしない遠い過去から、
「六道」といわれる苦しみ迷いの6つの世界を
生まれ変わり死に変わり、生死を繰り返していると
教えられています。
六道については下記をお読みください。
➾六道の意味と輪廻から抜け出し解脱する方法
その6つの迷いの世界の中でも最高の世界が天上界です。
これを「天界」とも「天」ともいいます。
なぜ天というのかというと、『正法念経』には、こう説かれています。
もろもろの楽集まるが故に、これを名づけて天となす。
(漢文:諸楽集故名之為天)(引用:『正法念経』)
また、『大般涅槃経』には、このようにも教えられています。
天とは無愁悩と名く、常に快楽を受く。この故に天と名づく。
(漢文:天者名無愁悩 常受快楽 是故名天)(引用:『大般涅槃経』)
天上界は、憂いや悩みのない、常に快楽を受ける世界なのです。
天上界に住んでいるのは、
他の宗教でいわれる神ですので、
神の国であり、天国が、天上界です。
ここに生まれ変わるにはどうすればいいかというと、『雑阿含経』にはこう説かれています。
十善業跡の因縁の故に、身壊し命終して天上に生ずることを得。
(漢文:十善業跡因縁故 身壞命終得生天上)(引用:『雑阿含経』)
10の善い行いである十善を行ずれば、肉体が亡び、命終わって天上界に生まれるということです。
では天上界には、どんな種類があるのでしょうか?
天上界の種類
天親菩薩の『倶舎論』によれば、天上界には27種類あります。
その27種類を3つに分類すると、下から順に欲界に6種類、色界に17種類、一番上の無色界に4種類です。
欲界の6種類の天上界とは、
1.四大王衆天(四王天、下天)
2.三十三天(忉利天)
3.夜摩天
4.覩史多天(兜率天)
5.楽変化天
6.他化自在天
の6つです。
これを「六欲天」ともいいます。
次に、色界の17種類の天上界は、大きく分けると、4つになります。
初禅天、第二禅天、第三禅天、第四禅天の4つです。
17種類の天上界を4つに分類すると、
初禅天
1.梵衆天
2.梵輔天
3.大梵天
第二禅天
4.少光天
5.無量光天
6.極光浄天
第三禅天
7.少浄天
8.無量浄天
9.遍浄天
第四禅天
10.無雲天
11.福生天
12.広果天
13.無煩天
14.無熱天
15.善現天
16.善見天
17.色究竟天
となります。
12番目の広果天と13番目の無煩天の間に無想天を入れて18種類とする場合もあります。
無色界の4種類の天上界は、
1.空無辺処
2.識無辺処
3.無所有処
4.非想非非想処
の4種類です。
四大王衆天について
織田信長が好きだった敦盛の
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり
」
の「下天」は、天上界の27種類の中でも一番下の四大王衆天です。
四大王衆というのは、四天王とその部下のことです。

(引用:日経新聞「東大寺の四天王立像」2020年4月30日)
四天王とは、持国天、増長天、広目天、多聞天のことです。
多聞天は別名、毘沙門天です。

(出典:ウィキペディア(毘沙門天))
これらの四天王は、仏教を守護する神で、帝釈天に仕えています。
四天王がいるので四大王衆天のことを「四王天」ともいわれます。
四王天の一日の長さについて、このように教えられています。
それ、人間の五十年をかんがえみるに、
四王天といえる天の一日一夜にあいあたれり。(引用:蓮如上人『御文章』)
人間の50年は、四王天でいえば、たった一日だから、
夢幻のような儚いものだ、ということです。
また、3番目の覩史多天というのは、兜率天ともいわれます。
ここは、お釈迦さまの次に仏のさとりを開く弥勒菩薩が修行しているところです。
第六天について
他にも、織田信長は第六天魔王を自称していましたが、
「第六天」は、天上界の下から6番目の他化自在天で、
第六天魔王は、仏道修行を邪魔する魔王です。
色界の3番目の大梵天は、梵天が住んでいるところです。
梵天は、自分が宇宙や人間を創造したと思い込んでいるのですが、お釈迦さまが35歳で仏のさとりを開かれた時、「どうか仏教をお説きください」とお願いした神でもあります。
忉利天と三十三天
天上界の27種類の中で、下から2番目の「忉利天」とか
「三十三天」といわれる世界は、
仏教を守護し、仏法者の求道心を試すといわれる帝釈天が統率しているところです。
この世界も、快楽の世界ですが、
ここに生まれると、地獄以上の苦しみもあります。
地獄の16倍苦しむ天上界
例えば「忉利天」に生まれると、
若いうちは快楽に限りがないのですが、
やはり寿命があり、やがて年老いてきます。
すると、「天人五衰」といわれる
5つの衰えが出てきます。
命終の時に臨みて五衰の相現ず。
一つには頭の上の華鬘たちまちに萎む。
二つには天衣、塵垢に着せらる。
三つには腋の下より汗出づ。
四つには両目しばしばめぐるめき。
五つには本居を楽しまず。
(漢文:臨命終時 五衰相現 一頭上華鬘忽萎 二天衣塵垢所著 三腋下汗出 四両目数眴 五不楽本居)(引用:源信僧都『往生要集』)
1つには、頭の上の花飾りがしぼんできます。
2つには、羽衣が、ごみや垢で汚れてきます。
3つには、脇の下に汗をかきます。
4つには、両目はしばしばめまいがしてきます。
5つには、自宅にいるのが苦痛になります。
このような老境にさしかかると、
あのすばらしい日々は消え去り、美しい音楽も聞こえず、
美味しい料理も、もう食べられません。
今まで親切だった他の天人や天女からも、
見捨てられてしまいます。
ちょうど人間でいえば、
お金があるときは、芸能人のようなセレブな生活をしていたのが、
人気が落ちて、お金がなくなってくると、
プールつきの高級住宅でのセレブな生活もできず、
今まで「先生、先生」とあがめてくれた人たちからも相手にされず、
1人寂しく苦しむようなものです。
天上界は、ものすごく楽しいので、
最後に年をとって楽しみが失われる老いの苦しみは、
地獄の苦しみの16倍と教えられています。
他にも、この苦しみを受ける天上界はたくさんあります。
そして最後は、命が尽きて、死んで行かなければなりません。
これをお釈迦さまは、『過去現在因果経』に、こう説かれています。
諸天は楽なりといえども福尽くればすなわち窮まり、六道に輪廻してついに苦聚となる。
(漢文:諸天雖樂福盡則窮輪迴六道終爲苦聚)(引用:『過去現在因果経』)
色々な天上界の人々は楽しみが多いと言っても、命が終われば、六道輪廻して苦しむ人々となる、ということです。
天上界といっても、やはり迷いの世界の一つなのです。
有頂天から始まる地獄
迷いの世界といっても、天上界に生まれるには、悪いことをせず、
「十善」を行じなければなりません。
「十善」とは、十悪の逆で、次のような10の善い行いです。
このような十善を実行するというのは、とても人間わざとは思えない大変なことなので、神のような善い行いをしないと、神には生まれられないということです。
さらに高い天上界に生まれるには、
神のような禅定の境地に達することが必要です。
中でも、天上界の27種類で、最高の世界である非想非非想処が
「有頂天」です。
ここに行くには、想像を絶する努力が必要です。
ところが、「有頂天から始まる地獄」という言葉があるように、
有頂天から無間地獄に堕ちることがあります。
このことを源信僧都の『往生要集』にはこう教えられています。
非想も阿鼻をば免れず。
(引用:源信僧都『往生要集』)
六道のうちで最高の非想非非想処(有頂天)に生まれても、
六道のうちで最低の阿鼻地獄(無間地獄)を免れるわけではない、ということです。
人間でも、事故を起こすのはルンルン気分のときです。
浮かれている心をおさえることは難しいので、
苦しいときよりも、いい気分に浮かれているときのほうが
危ないといわれます。
頑張ってすごい実績を作ると、
何でもできるかのように自惚れてしまって、
大失敗を仕出かすのです。
六道輪廻の中で、天上界でも最高の有頂天に生まれても、
次に地獄のどん底の無間地獄に生まれることがありますから、
苦しみ悩みはなくなりません。
これを『法華経』にはこう説かれています。
三界は安きことなし、なお火宅のごとし。
(漢文:三界無安 猶如火宅)(引用:『法華経』)
「三界」とは、欲界、色界、無色界の3つです。
どんな人の生きる世界も、ということですから、私たちの生きる世界もこの中に入ります。
「火宅」とは、火のついた家のことで、
隣の家が火事で、自分の家のひさしに燃え移ったときのような、
不安で仕方がない状態ということです。
どんなにお金があっても、どんなに地位が高くなっても、不安はなくなりません。
どんなにうまくいって天上界のような暮らしをしていても不安や心配が起きてきます。
どんな人の人生も、火のついた家のように不安が絶えないということです。
このように仏教では、神もまた六道輪廻の迷いの衆生であり、
神の世界である天国も、安らかな世界でもなければ、
目指すべき目的地でもないのです。
六道輪廻を離れる方法
今回の記事では、有頂天の意味と、天上界について詳しく解説しました。
仏教における有頂天の意味は、天上界の中でも最高の場所をいいます。
天上界は、27種類あり、
六道輪廻の迷いの世界の中でも、極めて楽しい世界です。
しかし天上界に行くのは極めて難しく、
たとえ天上界に行ったとしても死ぬ時に地獄に落ちることがあるのです。
そのため天上界にも、本当の安心はなく、
苦しみ続けることには変わりません。
しかし仏教では、この果てしない苦しみ迷いを離れて、
未来永遠変わらない幸せになる道が教えられています。
それについて仏教にどう教えられているかについては、
一言では述べられないので、分かりやすいように、
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この記事を書いた人

長南瑞生
日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか一人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。インターネットの技術を導入して日本仏教学院を設立。著書2冊。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと奮戦している。
仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者3千人、メルマガ読者5万人。ツイッター(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能。
著作
- 生きる意味109:5万部のベストセラー
- 不安が消えるたったひとつの方法(KADOKAWA出版)