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生きる意味を、知ろう。

スピリチュアルペインのケア・治療法

スピリチュアルペインとは「自分の人生は何だったのか」と
人生の意味に苦しむことで、終末期のガン患者などによく見られます。

医学の進歩により、命を延ばすことや、
緩和ケアによる「肉体の痛み」を軽くすることはできるようになってきましたが、
依然として、医学ではまったくどうすることもできないのが
スピリチュアルペインと呼ばれる「心の痛み」です。
どうすれば治療できるのでしょうか。

日本人の死因のトップはガン(癌)

日本人の2人に1人がガンになり、3人に1人がガンで死んで行く
といわれる日本人の死因のトップが癌です。

ガンは初期に発見できれば、
最近は治すことができるようになってきましたが、
発見が遅れると、やはり困難です。
癌を告知されて、もう治る見込みがないと余命宣告をされます。
そうすると、残りの人生を苦しまずに過ごせるように、ホスピスに入ります。

私たちは普段、自分が死ぬということを忘れていますが、
死は、まぎれもなく、すべての人の確実な未来です。
しかし、ホスピスに入ると、ガンが治ることはありません。
いよいよ死が間近に意識されてきます。

別に、「痛みさえなければ、死なんて怖くないよ」というのは、
まだ死に直面していない人の言うことです。
がんを告知された人はお先真っ暗になって、4割がうつ病になるといいます。

実際に死を間近にした人が体験する苦痛は、
肉体の痛みに加えて、
今までほとんどの人が気づいていなかった
疑問が起きてきます。

それがスピリチュアルペインです。

スピリチュアルペインの症状

人生の最後、末期ガンによって自分で動くこともままならず、
ホスピスのベッドの上に横たわり、一人天井を見つめていると、
なぜ自分だけ、こんな病気にかからなければならなかったのか……
「皆に迷惑をかけるばかりで、死んでしまったほうがましではないか」
なぜこんなに苦しまなければならないのか……
「今まで自分は一体何をして生きてきたのだろう?」
私は何のために生まれてきたのだろうか
「私が生まれてきたことに意味はあったのだろうか?」
寂しい……誰も助けてくれない
孤独で悲しい気持ちになります。

そして、今までできたことも何もできなくなってしまい、
ただ生きているだけで、もう何もすることがない、何のために生きているのだろう
自分の人生は何だったのだろう
という思いが起きてきます。

まもなく死んで行きますので、
死んだらどうなるのだろう
いよいよまったく未知の世界へ旅立たなければならない
真っ暗な心が出てきます。

一般的なアセスメント(評価)

アセスメント」とは、評価するということですが、
死に臨む人の苦しみを評価するための
一般的によく言われるアセスメント方法として、
近代ホスピスの創始者と言われるシシリー・ソンダースが考えた、
苦しみを
1.身体的苦痛
2.精神的苦痛
3.社会的苦痛
4.スピリチュアルペイン
の4つに分ける方法があります。

臨終の苦しみの一般的なアセスメント
  1. 身体的苦痛
  2. 精神的苦痛
  3. 社会的苦痛
  4. スピリチュアルペイン

それぞれどんな苦しみなのでしょうか?

1.身体的苦痛

1.身体的苦痛とは、病気の種類によりますが、様々な肉体的な苦しみです。
倦怠感や嘔吐、呼吸困難の他、色々な痛みでやりたいことが思うようにできずに苦しみます。

例えばガンの場合、最初は痛みはありませんが、
進行してがん細胞が肺や胃腸、膀胱など、臓器に浸透してくると
痛みが起きてきます。

食道ガンなら食べ物がつかえて傷み、
胃がんならみぞおちが痛みます。

血管にふれると、焼け付く痛みが現れ、
骨や神経など色々なところに浸透し、
全身が痛みます。

2.精神的苦痛

2.精神的苦痛とは、落ち込んだり、
どうしてこんな目にあわなければならないんだと腹を立てたり、
もう家族と会えなくなると悲しくなってりする心の痛みです。
孤独感や恐れ、いらだちや怒り不安などを感じます。
生きる希望をなくして鬱状態になる人もあります。
しかしこれはまだ、スピリチュアルペインとは違い、生きて行く上での心の痛みです。

3.社会的苦痛

3.社会的苦痛とは、
家庭内の人間関係、経済的な問題など色々ありますが、主にお金の苦しみです。

もう治らない病にかかると、医療費も高額で、お金が減ります。
自分のお金がなくなると、家族に迷惑がかかり、
早く死んで欲しい
と思われているのではないかと苦しんだり、
実際にカゲでそう言っているのが聞こえてきて苦しみます。

4.スピリチュアルペイン

4.スピリチュアルペインとは、人生の最後に
自分の人生は何だったのだろう
と、人生の意味を問い、自分の人生に意味がなかったと浮き彫りになる苦しみです。

人は普段から生きる意味を求めていますが、死に直面すると、
ますます強く生きる意味を知りたくなります。
これまでの人生を振り返り、小さい頃の記憶から、学校であったこと、就職して社会に出て仕事をしたこと、結婚したこと、仕事のこと、子供を育てたことなどを思い起こして回想します。
人生の終わりに、最初から最後までの人生の全体を考えてみたときに、「これまでの人生に何の意味があったのだろう」と疑問が起きてきます。
元気なときには意味があると思えていたことが、
死を目前にすると、意味がなかったと知らされ、生きる意味を求めて苦しみ悩むのです。
精神的な苦痛は、生きて行く上での、人生の一部分についての心の痛みですが、スピリチュアル・ペインは、自分にとっての、自分の人生全体の意味が分からない苦しみです。

トータル・ペイン

死に直面した人は、
これらの4つの組み合わせによって、
トータルに苦しみます。これを「トータル・ペイン」といいます。
日本語では「全人的痛み」といわれます。

これらの身体的苦痛以外の大部分は、
従来の医学ではどうしようもないものばかりです。

一般的なスピリチュアルペインのケア

これらの苦しみを緩和するために、
医学や科学は日夜進歩し、経済発展を目指しています。
しかし、医学や科学、経済にも限界があります。
そんなときに行われる中心的なケアは、
傾聴」です。

死に臨む人は、苦しみをよく聞いてもらい、
理解してもらい、共感してもらうことで、
心がスッと楽になります。

ですから、ここに書いてあるようなアセスメントをしてもらうだけでも、
かなり理解してもらうことができ、相当楽になります。

ただし、これは一時的に安心しますが、
問題が解決したわけではないので、
長くは続きません。

やはり、肉体の苦しみ、経済的な苦しみは続き、
心の苦しみもすぐにまたおそってきます。

特に、スピリチュアルペインは、
世間では「答えのない問い」と言われ、
医学や科学、お金はもちろんお手上げです。

このような患者をケアするチームでは、できるだけ死の話題には触れないようにします。
何かもっと楽しい話題を出して、死から目をそらさせようとします。
それというのも、死の話題は出さないように、本にも論文にも書かれているからです。

しかし「自分の人生に意味はなかった」という思いは、
いかに傾聴してもらっても、どうしようもありませんし、話題をそられてもどうにもなりません。

スピリチュアルペインは、隠すことはできても、
なくすことはできないのです。

では、仏教ではどうするのでしょうか。

スピリチュアルペインの仏教のアセスメント

仏教では、スピリチュアルペインを治療し、
完治することができます。

まずそのためには、正確なアセスメントが必要です。

仏教では、スピリチュアルペインと言われる中でも、
私だけがなぜこんなにつらい思いをしなければならないのか
身の回りのことも片付いたし、もう何もすることがない
まだやりたいことがあるのに……
誰も助けてくれない
というような思いの根本に、
人生の意味が分からない

死んだらどうなるか分からない
という2つの暗い心があると教えられています。

やがて必ず死ぬのに、
死んだらどうなるか分からないから、
人生の意味も分からないのです。

ちょうど急流を流れて必ず滝壺に落ちる船に乗っていると、
滝壺に落ちるまでに何をやっても、
何の意味もない気持ちになります。

人生も、元気なときには気づかないのですが、
死が近づいて来て、ようやく人生は、
この滝壺に落ちる船のようなものだったと気づくのです。

このことをお釈迦さまは、『大無量寿経だいむりょうじゅきょう』にこのように説かれています。

大命まさに終らんとして、悔懼けくこもごもいたる。

大命だいみょうまさに終らんとして」とは、
死に直面して、ということです。

」とは後悔です。
今までの人生は何だったんだろう
人生のすべてが無意味に思えてきて、
なぜ元気なときに意味のあることを探して、
それをやらなかったんだろう
」と後悔します。

」とは未来への怖れです。
いよいよまったく道の死へと入って行かなければならない
真っ暗な心が起きてきます。

臨終に、この後悔と怖れが代わる代わる起きてくる
これが、すべての人の臨終の心境だと教えられています。

こうして人生の意味が分からず、
ひとしくあっという間の人生を終わって行くことになるのです。

仏教の根本治療

仏教では、このような、人生で最も根本的な問題点と、
その原因を明らかにされ、その原因をなくすことによって、
人間に生まれてよかった」と人生に大満足できる
本当の人生の目的を教えられています。

それは仏教の真髄ですが、
電子書籍とメール講座にまとめてありますので、
ご関心があればそちらもご覧ください。

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この記事を書いた人

長南瑞生

長南瑞生

日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか一人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。インターネットの技術を導入して日本仏教学院を設立。著書2冊。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと奮戦している。

仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者3千人、メルマガ読者5万人。ツイッター(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能

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