原因と結果の法則
『原因と結果の法則』は、イギリスの謎の哲学者、ジェーム・ズアレンが1902年に書いた短い本です。
ところが、聖書に次ぐベストセラーと言われるほど多くの人に読まれ、デール・カーネギーやアール・ナイチンゲール、オグ・マンディーノなどに影響を与えた自己啓発の源流と言われています。
一体どんな内容なのでしょうか?
原因と結果の法則とは
今回説明する原因と結果の法則とは、ジェームズ・アレンが著書の中であきらかにした内容です。
科学的な法則だけではなく、この宇宙で明らかに成立する法則といいます。
人はある法則にしたがって生きています。
「原因と結果の法則」が目に見える物質界においても、目に見えない心の世界においても絶対的に行き渡っているのです。(引用:ジェームズ・アレン『ジェームズ・アレン全一冊』)
そして、ここでいう原因は、私たちの「思い」であり、この思いが環境や運命を設計するといいます。
しかし、思いがすべてを決めている、と言っているのではありません。
環境と私達の思いは、非常に密接な関係があるというのです。
ある時点におけるそれぞれの環境が、その人の「全人格」のあらわれであるという意味ではありません。
そうではなく、これらの環境は、自身の抱くひとつひとつの重要な思考の要素と密接に結びついている、ということです。(引用:ジェームズ・アレン『ジェームズ・アレン全一冊』)
どのような関係があるのでしょうか。
詳しくみていきましょう。
原因と結果の法則の効果
「原因と結果の法則」は、私たちの人生を創っている確かな法則です。
どんな手段を使っても、その法則を変えることはできません。
「原因と結果の法則」は、目に見える世界でも目に見えない心の世界でも、常に絶対であり、決してゆらぐことはないのです。
私たちは、なぜ自分が今いる世界に生きているのか、なぜ周りに今のような環境があるのか知りません。
そして、「原因と結果の法則」を知らない限り、自分の環境をコントロールすることはできません。
そればかりか周りの環境によって打ちのめされる運命にあります。
周りに流されるだけの人生の漂流者になってしまいますから、あらゆることに不平や不満を懐き、怒り、苦しみ悩み、悲しむだけです。
人生の成功を手にすることなど夢のまた夢です。
ところが、「原因と結果の法則」を知れば、周りの環境も、自分の人生もコントロールできるようになります。
そして、周りの人から愛され、敬われ、より大きな繁栄を手にすることもできます。
生みだした幸せは、この法則によって、より大きく、より多くの人に喜ばれ、長い間続くものになります。
原因と結果の法則は、引き寄せの法則のように思われることがありますが、
引き寄せの法則についてはこちらで説明していますのでご確認ください。
➾引き寄せの法則のやり方と本質・科学的根拠とは?
では「原因と結果の法則」は、一体どんなものなのでしょうか?
原因と結果の法則の要約
『原因と結果の法則』を要約すると、次の3つのことが書かれています。
- 「原因と結果の法則」の核心(1・2章)
- 健康・目標・成功へ各分野への法則の応用(3〜5章)
- ジェームズ・アレンの考える生きる目的(6・7章)
それぞれどんなことなのでしょうか?
まずジェームズ・アレンは核心部分から入っていきます。
1.原因と結果の法則の核心
「原因と結果の法則」はシンプルです。
一言でいうと、
「思いが人格を創り、環境と運命を創る」
ということです。
思いと環境
思いは密かに心に懐いているものを引き寄せます。
それは、望んでいるものを引き寄せるのではありません。
本当に愛しているものや、恐れているものなど、同じ性質のものを引き寄せます。
思いは種のようなもので、善い思いは善い実を結び、悪い思いは悪い実を結びます。
たとえば、人が刑務所に入ったり、貧乏で苦しむのは、過酷な運命や環境のせいではありません。
不純な思いと利己的な願望のせいなのです。
清らかな心を持った人は、どんな誘惑を受けようと、犯罪に手を染めたりはしません。
不純な思いや自己中心的な欲望が、犯罪という行為となり、刑務所に入ることになるのです。
環境が人間を創るわけではありません。
私たちの心が人格を創り、環境を生み出すのです。
自分の種まきによる報い
私たちが手に入れるものは、欲しいと願ったり祈ったりするものではありません。
自分の種まきの公正な報いとして受け取るものです。
ですから、環境と戦うためには、自分の心を変えなければならないのです。
ほとんどの人は、善い環境を望みながら、自分を変えようとしないので、苦しみ続けなければならないのです。
善い思いや行いは決して悪い結果を発生させませんし、
悪い思いや行いは決して善い結果を発生させません。
これは、トウモロコシからはトウモロコシ以外のものは決して成長しないこと、あるいは、イラクサからはイラクサ以外のものはけっして成長しないことと同じくらい明らかなことです。
心の中でくり返しめぐらされる思いは、たとえ善いものでも、悪いものでも、人格と環境内でそれ自身の結果を発生さることに、けっして失敗することがないのです。
具体的にはどんなことでしょうか?
2.各分野への法則の応用
次にジェームズ・アレンは健康、目的、成功への各分野への『原因と結果の法則』の応用を示します。
思いと健康
肉体は心の召使いです。
心の中でめぐらされる思いに、つねにしたがっています。
病気と健康は、心の中でめぐらされる思いの明らかなあらわれです。
病気を恐れていると、やがてその病気になります。
どんなに食生活を改善しても、不安が肉体を混乱させ、病気に無防備にさせます。
けがれた思いが神経系をずたずたにし、けがれた血液を生み出します。
きれいな心からきれいな肉体ときれいな人生がつくられます。
悪意、羨望、皮肉、疑い、怒り、不安、失望は、肉体から健康と美しさを奪います。
憂鬱な心は憂鬱な表情を生みだし、愚かな思い、高慢な思いが、醜いしわを刻みます。
善意、好意、優しく明るい思い、理性、忍耐、穏やかさによって、強い肉体と幸せな表情が生まれます。
思いと目的
思いと目的が結びつかないと、価値あるものごとの達成は不可能です。
目的をもたないために人生の海原を漂流している人たちが驚くほどたくさんいます。
もし人生の海に遭難したくなければ、絶対にやめなくてはならないことです。
生きる目的を持たないと、つまらないことで思い悩み、余計な苦悩を背負ってみたり、ちょっした失敗ですぐ絶望してしまいます。
人間は生きる目的を心に懐き、その達成を目指すべきです。
そして疑いと恐れは、厳しく排除されなければなりません。
それらは生きる目的達成にいたるまっすぐな道を寸断したり、ねじ曲げたりすることで、あらゆる努力の効果を削減、あるいは皆無にさえしてしまいます。
心と人生で常に機能している「原因と結果の法則」を自らの手で発見し、信頼すれば、あらゆる疑いや怖れが去って行きます。
私たちの思いは、生きる目的と勇敢に結びついたとき、創造のパワーになります。
思いと成功
人間は、もし成功を目指すならば、自分の欲望を犠牲にしなければなりません。
自己中心的な欲望を優先する人は、明晰な思いもめぐらせず、秩序だった計画も立てられません。
自分の真の能力を発見することも開発することもできず、何をやっても失敗するでしょう。
成功を手にできない人は、自分の欲望をまったく犠牲にしていない人たちです。
私たちは、犠牲を払うことなくしては、いかなる進歩も成功も望めません。
私たちの成功は、どれだけ強く決意し、どれだけ欲望を犠牲にできるかにかかっています。
自分の心を高めれば高めるほど、より大きな、持続的な成功となるのです。
3.ジェームズ・アレンの考える生きる目的
そしてジェームズ・アレンは、心の中で描くビジョンにしたがって人生は形作られ、
「人間が達成するあらゆる成功が努力の結果」
だといいます。
そして、究極の目的は、穏やかな心であるといいます。
それは「心の平和」とも呼ばれ、強く、静かで、柔和で、愛され、敬われる心です。
穏やかになればなるほど、より大きな成功、繁栄、影響力、権威を手にすることできます。
それは、「原因と結果の法則」を理解し、自己コントロールの長く粘り強い努力の結果だといいます。
ではジェームズ・アレンは、なぜこのような「原因と結果の法則」を思いついたのでしょうか?
それについてジェームズ・アレンが亡くなった4年後の雑誌にこう記されていました。
原因と結果の法則の源流
ジェームズ・アレンは、1864年にイギリス中部のレスターという町に生まれます。
父親は一時は豊かな事業を営んでいましたが、ジェームズ・アレンが15歳になる頃には倒産し、なけなしのお金を持ってアメリカへ渡ります。
一旗揚げて家族を呼んでアメリカで暮らそうと思っていたのですが、アメリカ到着から2日後、事故で亡くなってしまいました。
そのため学校へ行くことができなくなったジェームズ・アレンは、母親と2人の弟を養うために、工場で1日15時間働くようになります。
やがて17歳になったとき、父親のシェイクスピアを見つけます。
それからはシェイクスピアを早朝や夜中に熱心に読み進め、すべての作品を知り尽くします。
それから読んだのはエマーソンのエッセイでした。
そしてだんだん前向きになっていきます。
24歳のとき、仏教学者のエドウィン・アーノルドがブッダの生涯と教えを書いた『アジアの光』に出会います。
エドウィン・アーノルドは、『アジアの光』をこう書き始めます。
この宗教(仏教)こそ、万人の希望は永遠にして、無辺の愛は朽ちることなく、究極の善の信仰は不滅の因であると説き、人間の自由を最も気高く確信しているのである。
(引用:エドウィン・アーノルド『アジアの光』)
この本に出会った衝撃を、ジェームズ・アレンは、こう言っています。
アレン
実際、ジェームズ・アレンが『原因と結果の法則』の中心としている
「私たちの心が人格を創り、環境を生み出すのです」
については、『ダンマパダ』(『法句経』)に、こう説かれています。
ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。
(引用:『ダンマパダ』1)
これは、漢文調でいえば、
「諸事、意を以て先とし、意を主とし、意より成る」ということです。
「意」とは心のことですから、まさしく、ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される、ということです。
このことを『華厳経』にはこのように例えられています。
心は工みな画師の如し
(漢文:心如工画師)(引用:『華厳経』)
心が自分が生きる世界を生み出す有様は、まるで画家がありとあらゆる絵を描き出すようなものだ、ということです。
このようにジェームズ・アレンの『原因と結果の法則』は、すべては神が生みだしたとするキリスト教ではなく、自分の心と、それによる行為が自分の運命のすべてを生み出すと教える仏教によるものだったのです。
心が世界を生み出す法則
仏教は、
「すべての結果には必ず原因がある」
という因果の道理を根幹として説かれています。
中でも私たちの運命を生み出す原因は、自分の行いだと教えられています。
これを自業自得とも、因果応報ともいわれます。
それは、ブッダの説かれたこのシンプルな法則です。
善因善果
悪因悪果
自因自果(ブッダ)
善い行いは善い運命を生みだし、
悪い行いは悪い運命を生み出す、
自分のたねまきは自分が刈り取らなければならない、
ということです。
私たちの心と口と身体の行いは、目に見えない業力となって阿頼耶識という心に蓄えられます。
そしてその阿頼耶識におさまった業力が自分の生きる世界を生み出し、運命を生み出すことを、仏教では、2000年以上前から説き続けられているのです。
ですから仏教を学んでいたジェームズ・アレンは、『原因と結果の法則』の中にこう書いています。
釈迦は、けがれのない美しさと完璧な平和に満ちた精神世界のビジョンを懐きつづけ、そのなかに進入しました。
(引用:ジェームズ・アレン『原因と結果の法則』)
また、『平和の道』には、このように書いています。
ブッダは真理を深く瞑想し、わたしが真理である、といえる境地に達しました。
(引用:ジェームズ・アレン『平和の道』)
聖なるゴータマ・ブッダはこういいました。
人生の真の目的を忘れ、快楽にしがみつき、虚栄に身をゆだねて、瞑想をしようとしない者は、いつかそのうちに、瞑想に打ち込んだ者を嫉妬するようになるだろう。(引用:ジェームズ・アレン『平和の道』)
自己啓発の源流が「原因と結果の法則」といわれますが、そのルーツはこのように、仏教にあるのです。
原因と結果の法則よりも深い教え
今回は、ジェームズ・アレンの原因と結果の法則について説明しました。
原因と結果の法則とは、物理的にも心理的にも存在する法則です。
原因は、私たちの「思い」(心)であり、
私たちが受ける運命や生活する環境といった結果は、
心の状態と密接に関係する、ということが原因と結果の法則です。
健康、目的、成功という分野に対する
原因と結果の法則の応用方法についてもジェームズ・アレンは書いています。
それから原因と結果の法則の源流は、仏教にあることをお伝えしました。
ジェームズ・アレンの当時は、欧米では『法句経』などの一部のお経しか読めなかったかもしれませんが、実は仏教で因果の道理が教えられるのは、ジェームズ・アレンが考えたよりも、もっともっと深い理由があります。
それは、苦しみ悩みがなくならない根本原因を知らせて、それを断ち切り、変わらない幸せに導くためです。
その苦しみ迷いの根本原因については、仏教の真髄ですので、電子書籍とメール講座にまとめておきました。
詳しくは今すぐ以下のページからご覧ください。
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この記事を書いた人
長南瑞生
日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか一人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。インターネットの技術を導入して日本仏教学院を設立。著書2冊。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと奮戦している。
仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者3千人、メルマガ読者5万人。ツイッター(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能。
著作
- 生きる意味109:5万部のベストセラー
- 不安が消えるたったひとつの方法(KADOKAWA出版)