五戒とは?
仏教では、在家の人には「五戒」という5つのルールがあります。
「五戒」は、地獄に堕ちないためのガイドラインで、
この5つのうち、1つでも破ると、死後は地獄に堕ちると
お釈迦様は説かれています。
逆に、死ぬまでの間、五戒を守ることができれば、
また人間に生まれることができます。
それ、人間界の生をうくることは、まことに五戒をたもてる功力によりてなり。
(引用:蓮如上人御文)
では「五戒」とは、どんな決まりなのでしょうか?
五戒の意味
五戒とは、どんなことでしょうか。
一旦、仏教の辞典を確認してみましょう。
五戒
ごかい[s:pañca-śīla]
在俗信者の保つべき五つの戒(習慣)。
不殺生・不偸盗・不邪婬・不妄語・不飲酒の5項からなる(東晋の郗超『奉法要』には五戒として、不殺・不盗・不婬・不欺・不飲酒を挙げる)。
原始仏教時代にすでに成立しており、他の宗教とも共通した普遍性をもつ。
しかし行為に関する外形的制約にすぎず、心の動きは問わない。
この点で十善戒に劣り、大乗興起の頃は小乗の持する戒として重んじられなかった。
大乗仏教中期(3世紀頃)以降になると教団運営の主導権が比丘に移り、七衆の波羅提木叉の第一として大・小乗を兼受することが一般化し、再び重視されるようになった。
今日でも在家信者の戒の代表的な地位を占めている。
比丘となるために受戒する場合も五戒から受け直すことになっており、いずれの場合も三帰依の後に受けるのを通例とする。(引用:『岩波仏教辞典』第三版)
つまりは「五戒」は、以下の5つです。
これが一体どういうものなのか、仏教辞典では分からないところまで分かりやすく解説していきます。
まず、五戒はお経のどこに説かれていて、守るとどんな効果があるのでしょうか。
五戒の効果
これらの「五戒」は一切経の色々なところに説かれていますが、
例えば『雑阿含経』では、このように説かれています。
不殺生、不偸盗、不邪淫、不妄語、不飮酒、これを戒具足と名づく。
(漢文:不殺生 不偸盜 不邪婬 不妄語 不飮酒 是名戒具足)(引用:『雑阿含経』)
また、このようにも説かれています。
優婆塞は、殺生、不与取、邪淫、妄語、飮酒を離れて、なすことを楽しまず。
(漢文:優婆塞 離殺生 不與取 邪婬 妄語 飮酒 不樂作)(引用:『雑阿含経』)
「優婆塞」とは、在家の男性の仏法者、
「不与取」とは、偸盗のことです。
ですから在家の仏法者も、殺生、偸盗、邪淫、妄語、飲酒を楽しまず、離れなければならないと教えられています。
また『法句経』には短い詩の形でこのようにあります。
二四六、二四七生きものを殺し、虚言を語り、世間において与えられていないものを取り、他人の妻を犯し、穀酒・果実酒に耽する人は、この世において自分の根本を掘りくずす人である。
(引用:中村元『ブッダの真理のことば 感興のことば』)
そして『優婆塞戒経』には、5つのうちのどれ1つ破っても、
この世では財産を失ったり、命が短くなったり、
色々な不幸がやってきて、
死ねば地獄に堕ちることが説かれています。
では、この5つのルールはそれぞれどのような意味なのでしょうか?
不殺生戒
「不殺生戒」とは、生き物を殺さないことです。
五戒だけでなく八戒などでも最初にあげられ、最も重い罪です。
これは、人間を殺すのは「断人命」
といわれますので、人間以外でもダメです。
仏様は、さとりの智慧によって、
すべての生命は、生まれ変わり死に変わり、
輪廻転生を繰り返していることを知られましたので、
すべての生命は同根で、上下はありません。
蚊やハエなどの虫も含めて、
どんな生き物を殺しても、
殺生罪となります。
さらに、自らの手で殺さなくても、
人にお願いして殺してもらうのも、
「他殺」という殺生罪となります。
たとえば、スーパーで売っている魚を食べるのも、
猟師の人に魚を殺してもらっていることになりますし、
豚や鶏を食べるのも、畜産農家の方に、代わりに
殺してもらっていることになりますので、殺生罪です。
また、野菜を食べるときでも、
農家の方に「害虫駆除」をしてもらっていますので、
やはり殺生罪です。
また、新幹線を使ったり、
車でスピードを出すと、
ライトのところに虫がぶつかって、たくさんこびりついて
死んでしまいますので、やはり殺生罪です。
生きるためには殺生しても仕方がない?
他の宗教では
「生きるためには生き物を殺しても仕方がない、だから罪とは言えない」
と言う人がいます。
しかし殺された側にとってその理屈は成り立つでしょうか。
人間の都合で殺しておいて罪にならないというのは、人間界の法律では認められても、
大宇宙の真理である因果の道理では認められないのです。
人間以外のどんな生き物であっても命を奪うのは、
間違いなく悪果となって返ってくるのです。
殺生については、下記をご覧ください。
➾殺生の意味。他殺や随喜同業で魚や虫を殺しても地獄行き
不偸盗戒
「不偸盗戒」とは、他人のものを盗まないということです。
また、偸盗のことを「不与取」ともいわれ、
それ相応のたねまきをせず、楽して結果を得たり、
身分不相応な贅沢をするのも偸盗罪になります。
また、時間に遅れるのも、
他人の時間を奪う偸盗罪になります。
なぜ盗みが罪なのか
なぜ盗みが罪なのかというと、
私たちの行為によって結果を受けるのが道理であるにもかかわらず、
与えずして物を取るというのは道理に反した行為だからです。
我が身を振り返った時、与えずしてしてもらっていることばかりであれば、
反省し、ご恩返しに励みましょう。
偸盗について詳しくは下記をご覧ください。
➾泥棒の報いとそのまま幸せになれる仏教の方法
不邪淫戒
「不邪淫戒」とは、よこしまな男女関係をしないということです。
不倫や浮気はもちろんダメですが、
仏教では、口や身体はもちろん、心を最も重視されますので、
自分の配偶者を嫌いになって、他人を好きになってもアウトです。
邪淫を行うとどうなるのか
邪淫をすれば当然自分の妻を傷つけ、家庭を壊すため、
邪淫が悪であるのは分かりやすいでしょう。
お釈迦様は邪淫をすると、以下のようになると言われています。
放逸で他人の妻になれ近づく者は、四つの事がらに遭遇する。
すなわち、禍をまねき、臥して楽しからず、第三に非難を受け、第四に地獄に堕ちる。(引用:中村元『ブッダの真理のことば 感興のことば』)
邪淫についてはこちらもお読みください。
➾不倫や浮気の罪と報い
不妄語戒
「不妄語戒」とは、事実無根の嘘をつかないということです。
何か大きなミスをしたり、不祥事を起こすと隠したくなりますが、
ごまかさずに正直に言わなければなりません。
自分に都合の悪いことは、うやむやにしたり、
相手が誤解するような言い方をしますが、
相手に事実が正しく伝わるようにしなければなりません。
妄語を言う人はどんな人か
お釈迦様は平気で人を欺くような人を、恥知らずな人と仰っています。
無慙愧の人、妄語して心を覆へば、道法の入らざること、亦復た是の如し。
(漢文:無慚愧人妄語覆心道法不入亦復如是如)(引用:『大智度論』)
この意味は、
「恥知らず(無慚)で反省のない人(無愧)は、嘘偽りを言い、
心が覆われているので仏の教えが入らないことは、これ(裏返したたらい)と同じだ」
ということです。
妄語について詳しくは、こちらもご覧ください。
➾嘘つきの報いとそのまま幸せになれる仏教の方法
不飲酒戒
「不飲酒戒」とは、お酒を飲まないということです。
飲酒は、行為自体は罪ではありませんが、
飲酒を原因として、結果的に罪を犯すおそれがあるので、禁止されました。
お酒を飲むと、判断力が失われ、
自覚のないうちに、大変な事をしてしまいます。
翌日になっても覚えていないかもしれません。
飲酒運転まで行くと極めて危険ですが、
そこまで行かなくても、
どんな恐ろしいことを仕出かしているか分かりません。
付き合いが悪いと思われても、
何とかして切り抜けなければなりません。
このような5つのルールが五戒です。
まとめるとことなります。
これらの五戒を守らなければ人間に生まれられないのですから、
人間に生まれることは大変に難しいことです。
人間に生まれる難しさ
お釈迦様は、人間に生まれる難しさを、
「目の見えない海亀が、広い海の底から、100年に1度浮かびあがり、
海面を漂う穴の空いた丸太の穴に首を通すことがあるよりも難しい」
と『雑阿含経』に教えられています。
これでは、何億年×何億年、何兆年×何兆年に1度、
ひょっとしたら、ないとは言い切れないレベルの難しさです。
そして、人間に生まれても、五戒のうち1つでも破れば、
また六つの苦しみ迷いの世界へ果てしなく輪廻してしまうのです。
この輪廻の迷いを断ち切る方法は、仏教にのみ教えられていますが、
仏教を聞けるのは、生まれがたい人間に生まれたときだけです。
生まれがたい人間に生まれたときに、
この迷いの根元を絶ち切って、未来永遠の幸せになることが、
人間に生まれた目的だと仏教では教えられています。
人間に生まれた目的を果たす方法
今回の記事では、五戒とは何か、仏教で禁止されていることについて
五戒を通して解説しました。
五戒とは、まとめると以下の5つです。
不殺生戒…生き物を殺さない
不偸盗戒…他人のものを盗まない
不邪淫戒…不倫や浮気をしない
不妄語戒…嘘をつかない
不飲酒戒…お酒を飲まない
この五戒を守ると人間界に生まれることができますが、
非常に難しいことなので、人間に生まれることは大変有り難いことなのです。
輪廻の迷いを抜け出すには、
人間界に生まれ、仏法を聞くしかありませんので、
今まさに最大のチャンスです。
では、どうすれば、迷いの根本原因を絶ち切れるのかは、
仏教の真髄ですので、電子書籍とメール講座にまとめておきました。
チャンスは何兆年に1度ですので、1度見ておいてください。
関連記事
この記事を書いた人
長南瑞生
日本仏教学院 学院長
東京大学教養学部卒業
大学では量子統計力学を学び、卒業後は仏道へ。仏教を学ぶほど、その底知れない深さと、本当の仏教の教えが一般に知られていないことに驚き、何とか1人でも多くの人に本物を知って頂こうと、失敗ばかり10年。たまたまインターネットの技術を導入して爆発的に伝えられるようになり、日本仏教学院を設立。科学的な知見をふまえ、執筆や講演を通して、伝統的な本物の仏教を分かりやすく伝えようと今も奮戦している。
仏教界では先駆的にインターネットに進出し、通信講座受講者4千人、メルマガ読者5万人。X(ツイッター)(@M_Osanami)、ユーチューブ(長南瑞生公式チャンネル)で情報発信中。メールマガジンはこちらから講読可能。
著作
- 生きる意味109:5万部のベストセラー
- 不安が消えるたったひとつの方法(KADOKAWA出版)